HPCスタッフコラム

2019.05.29

レジスタンストレーニング前の有酸素運動の効果

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レジスタンストレーニングと有酸素運動を同じセッション内に行うコンカレントトレーニング法というトレーニング方法があります。筋力と心肺系持久能力を同セッションに内にトレーニングでき、時間的な制約がある場合に多く用いられることが多いようです。しかし、利便性の裏にはお互いのトレーニング効果を打消しあってしまうという弊害もあるようです。Hakkinenら(1)は、低頻度のコンカレントトレーニングであっても爆発的筋力の向上を阻害するとしています。このトレーニング方法はレジスタンストレーニングによる適応を抑え、筋内の毛細血管の増加を促すとの報告もあります(2)。また、高頻度のコンカレントトレーニングによって筋肥大が抑制された(3)ともあります。

このように長期的なコンカレントトレーニングの影響は数多く報告されています。そこで、今回紹介する研究は有酸素運動がレジスタンスエクササイズのパフォーマンスにおよぼす急性的な影響を検証しています。レジスタンストレーニング前に有酸素運動を行うことでどのような影響が出るのでしょうか?

 

Acute resistance exercise performance is negatively impacted by prior aerobic endurance exercise.
レジスタンスエクササイズの急性的なパフォーマンスは直前の有酸素持久的エクササイズによって阻害される

Ratamess, NA, Kang, J, Porfido, TM, Ismaili, CP, Selamie, SN, Williams, BD, Kuper, JD, Bush, JA, and Faigenbaum, AD.
J Strength Cond Res 30(10): 2667–2681, 2016

目的
この研究の目的は、4つの異なる有酸素持久的なプロトコル後のレジスタンスエクササイズの急性的なパフォーマンスを検証することである。

被験者
健康でレジスタンストレーニングを行う11名の男性(年齢:21.0±1.2歳、身長178.5±8.7cm、体重:79.9±13.9kg、体脂肪率:13.1±3.9%、スクワット1RM:132.0±41.0kg)

方法
参加者はコントロールとしてのレジスタンスエクササイズ(RE)プロトコル及び異なる有酸素持久的(AE)プロトコルの10分後にREを4回、無作為の順番で実施した。REは5種類のエクササイズ(ハイプル、スクワット、ベンチプレス、デッドリフト及びプッシュプレス)を最大拳上重量(1RM)の70~80%の重量で6回~10回を3セット、セット間に3分の休息で構成された。AEのプロトコルではトレッドミル上で次の強度で走った;a)予備酸素摂取量の60%の強度で45分(P1);b)予備酸素摂取量の75%で20分(P2);c)予備酸素摂取量の90~100%で3分毎のインターバル(1:1)を5分間(P3);そしてd)予備酸素摂取量の75%及び上り坂(6~9%)で20分(P4)。REプロトコル中の実施回数、平均パワーと速度、心拍数(HR)及び自覚的運動強度(RPE)をセットごとに評価した。
*予備酸素摂取量:最大酸素摂取量と安静時酸素摂取量の差。

結果
AEのプロトコルP1からP4は、コントロールのREと比較して9.1~18.6%少ない総実施回数につながり、スクワットにおいて減少が最も大きかった。平均パワー及び速度は、ほとんどのAEプロトコル後にハイプル、スクワット及びベンチプレスで有意に減少した。ハイプル及びスクワットの自覚的運動強度の数値はコントロールと比較してP1からP4にて有意に高かった。心拍数はRE中はコントロールと比較してP1からP4において有意に4.3~5.5%高かった。

結論・応用
これらの結果は、健康な男性におけるレジスタンスエクササイズの急性的なパフォーマンスは異なるタイプ、強度、持続時間のAE後に有意に減少し、最も減少が大きかったのは高強度のインターバルエクササイズ後であった。

オリジナルの文献はこちら

 

レジスタンスエクササイズ前の有酸素運動はどのような形であれ、その後のレジスタンスエクササイズのパフォーマンスを阻害するようです。運動強度の高いインターバルトレーニングが最も阻害効果が大きいようですが、本文からは、この次にレジスタンスエクササイズのパフォーマンスに影響を及ぼすものは、60%の強度で45分間走るものでした。より強度の高い運動後またはより長時間の運動を行った後に、より有酸素運動の影響が出てくると考えられます。

今回の研究の結果は、有酸素運動とレジスタンストレーニングを同セッション内で行うことのむずかしさを改めて示しています。レジスタンストレーニングによる筋力やパワーの向上を一番の目的としている場合は有酸素運動をセッション前に行わないといった配慮が必要でしょう。同じような環境として、スポーツの練習後にレジスタンストレーニングを行う場合などが挙げられます。オフシーズンなど筋力や筋量の増加を目的とする時期には独立したレジスタンストレーニングのセッションが必要となってくるでしょう。

 

参考文献
1. Häkkinen, K., Alen, M., Kraemer, W. J., Gorostiaga, E., Izquierdo, M., Rusko, H., … Paavolainen, L. (2003). Neuromuscular adaptations during concurrent strength and endurance training versus strength training. European Journal of Applied Physiology, 89(1), 42–52
2. Bell, G. J., Syrotuik, D., Martin, T. P., Burnham, R., & Quinney, H. A. (2000). Effect of concurrent strength and endurance training on skeletal muscle properties and hormone concentrations in humans. European Journal of Applied Physiology, 81(5), 418–427
3. Jones, T. W., Howatson, G., Russell, M., & French, D. N. (2013). Performance and neuromuscular adaptations following differing ratios of concurrent strength and endurance training. Journal of Strength and Conditioning Research, 27(12), 3342–3351