HPCスタッフコラム

2019.06.12

コーチング:内的または外的に意識を集中させる

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コーチングする際の声がけや指示によって、正しい動作を行わせたり、パフォーマンスを向上させたりするすることができます。ストレングス&コンディショニングコーチやパーソナルトレーナーにとって、正しい動作をクライアントやアスリートに行ってもらうための指示や、パフォーマンス数値を向上させるためのコーチングはコーチやトレーナーの資質として欠かせないものです。

コーチングのキューイングや指示は、内的なものと外的なものに分類することができます。内的なものは、身体全体や部位の動きに集中させるものであり、一方で外的なものは動作が環境に与える効果を意識させるものです(1)。つまり、内的な指示とは動作の過程に意識を集中させ、外的な指示は動作の結果を意識させるのです。例えば、スクワット時に膝が中に入るようなアスリートに、「外転筋を意識して」というのが内的に、「膝を外に向けて」というのが外的に意識を集中させるための指示と言えるます。

今回紹介する文献は、垂直跳び時に出された内的または外的に意識を集中させる指示によって、それらが垂直跳びの結果に与える効果を比較しています。

 

Effect of internal vs. external focus of attention instructions on countermovement jump variables in NCAA Division I student-athletes.
NCAA1部の学生アスリートにおいて内的または外的な意識の集中を促す指示が垂直跳びの変数に与える影響

Kershner, AL, Fry, AC, and Cabarkapa, D.

J Strength Cond Res XX(X): 000–000, 2019

目的
この研究の目的は、内的または外的な意識の集中を促す指示が大学生アスリートにおける反動を用いた垂直跳び(CMJ:Counter Movement Jump)の力―時間の特性に与える影響を比較することである。

被験者
NCAA1部の野球チームに所属する43名のレジスタンストレーニング経験のある男子学生(年齢 = 20.0 ± 1.5 歳;身長 = 186.4 ± 6.6 cm;体重 = 88.9 ± 8.8 kg)

方法
各参加者はトータルで16回のCMJをフォースプレート上で実施し、その際、腕の振りを制限するために木の棒を肩に担いで行った。跳躍高(JH)、最高速度(PV)、及びコンセントリック局面の平均速度(MCV)といった力とパワーのパラメタ―を力―時間及び変位のデータから計算した。ペアt検定及びコーヘンの効果量を用いて条件間の差異を検証した。

結果
外的に意識の集中をするように指示された時、内的に意識を集中させた時よりも有意に高いJH、PV、及びMCVを記録した(外的JH = 48.0 ± 5.6 cm、内的JH = 46.4 ± 5.4 cm;外的 PV = 3.6 ± 0.3 m·s−1、内的PV = 3.5 ± 0.3 m·s−1;外的MCV = 2.31 ± 0.22 m·s−1、内的MCV = 2.25 ± 0.23 m·s−1、p < 0.05)。興味深いことに、動作のチェック時に内的に集中するような指示の方をより頻繁に思い出しており、それは被験者が意識的にこれらの指示をより多く処理することで、内的な状態のパフォーマンスを減少させたことが示唆される。

結論・応用
これらの結果は、指示の方法によってスキルの効率やパフォーマンスを変化させることを示した。文献やこの研究によると、もし最適なパフォーマンスの数値が望まれる場合は、外的な意識の集中を促す指示が用いられるべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究で与えられた内的に意識を集中させるための指示は「膝関節と股関節を可能な限り爆発的に伸展させてください」でした。一方で外的な指示は「可能な限り爆発的に地面を蹴って跳んでください」でした。また、この研究のようなパワーの発揮だけでなく、Wulfら(2)によればバランス能力においても内的な指示よりも外的な要素に注目するような指示を与えた方がより良いパフォーマンスを発揮したそうです。これは、内的な要素に集中するような指示によって、動作をコントロールする際に意識的な干渉がおこることでパフォーマンスを減少させてしまう(2)ためと解説されています。

コーチやトレーナーがパフォーマンスの向上を目的として指示を出す場合、身体の部位ごとのコントロールや力発揮を意識させるもの(例:○○筋を意識して!○○関節を使って!)よりも、その動作の全体をイメージさせるような指示(例:速く、高く!強く踏み切る!)を用いることで全身の協調性が保たれより良いパフォーマンスにつながると考えられます。

 

参考文献
1. Benz, A., Winkelman, N., Porter, J., & Nimphius, S. (2016). Coaching instructions and cues for enhancing sprint performance. Strength and Conditioning Journal, 38(1), 1–11
2. Wulf, G., McNevin, N., & Shea, C. H. (2001). The automaticity of complex motor skill learning as a function of attentional focus. Quarterly Journal of Experimental Psychology Section A: Human Experimental Psychology, 54(4), 1143–1154