HPCスタッフコラム

2019.08.07

ポジションステイトメント:高齢者のためのレジスタンストレーニング

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近年は平均寿命ではなく健康寿命の長さが重要となってきています。健康寿命とは平均寿命から病気やけがで健康状態を保てなくなった年数をのぞいたもの(1)、つまり良好な健康状態で自立した生活を送れる期間とされています。多くの高齢者の方々がより長く良好な健康状態を保つためにレジスタンストレーニングは非常に効果的な方法の一つであると言え、多くの研究や実践の場からの経験でその効果は明らかになっています。

そんな中、先日NSCA米国本部がJournal of Strength and Conditioning Researchにて高齢者のレジスタンストレーニングに対するポジションステイトメントを発表しました。このポジションステイトメントはこれまでに発表された研究をエビデンスとし、高齢者にとって安全で効果的なレジスタンストレーニングの方法とその効果を示しています。

 

Resistance training for older adults: position statement from the national strength and conditioning association.
高齢者のためのレジスタンストレーニング:NSCAによるポジションステイトメント

Fragala, MS, Cadore, EL, Dorgo, S, Izquierdo, M, Kraemer, WJ, Peterson, MD, and Ryan, ED.

J Strength Cond Res XX(X): 000–000, 2019

ポジションステイトメントの概要
このポジションステイトメントの目的は、現在発表されていて関連した研究の概要を提供し、エクササイズプログラムの要素を評価し、そして高齢者のレジスタンストレーニングに対するエビデンスベースの推奨事項を示すことである。現在発表されている研究はレジスタンストレーニングを行うことによって筋の不使用に対して対処することは筋力の低下や、筋量の減少(サルコペニア)、生理的な脆弱性(フレイル)、そして身体的な機能性やモビリティ、自立性、慢性的な疾患のケア、心理的な健康状態及び生活の質を低下させてしまうという悪影響に対抗するための有力な介入方法である。

高齢者における効果的なレジスタンストレーニングついての11の要綱を4部分にして下記に示した。これらの推奨事項の目的は(a)高齢者のレジスタンストレーニングに対してより統一され総合的なアプローチを構築する、(b)高齢者のレジスタンストレーニングの健康及び機能的な効果を奨励する、そして(c)高齢者のためのレジスタンストレーニングを実施するにあたっての不安やその他の障害を取り除くことにある。

パート1:レジスタンストレーニングプログラムの要素
1.エクササイズテクニックの適切な指示と正しい補助のテクニックを含む適切に計画されたレジスタンストレーニングプログラムは、健康な高齢者にとって安全である。
2. 高齢者のための適切に計画されたレジスタンストレーニングプログラムは、個別化および期分けされ、各筋群に付き1~2個の多関節エクササイズを1RMの70~85%の負荷で2~3セットを週に2~3回実施し、その中に中程度の負荷(1RMの40~60%)でコンセントリック局面でより速く動くパワーエクササイズを含むべきである。
3. 高齢者に向けたレジスタンストレーニングは、個別性、期分け、そして漸進性の原則に沿って実施されるべきである。

パート2:高齢者のレジスタンスエクササイズトレーニング対する有益な生理的な適応
4. 適切に計画されたレジスタンストレーニングのプログラムは、老化する人間の骨格筋の収縮機能、委縮、そして形態の年齢に応じた変化に対して抗うことができる。
5. 適切に計画されたトレーニングプログラムは、高齢者の筋力やパワーそして神経筋の機能を向上させることができる。
6. 高齢者におけるレジスタンストレーニングへの適応は、トレーニングへの神経筋、神経内分泌、及びホルモンの適応によってもたらされる。

パート3:高齢者のためのレジスタンスエクササイズトレーニングの機能的な効果
7. 適切に計画されたレジスタンストレーニングのプログラムは、モビリティ、身体機能、日常生活における活動のパフォーマンスを向上させ、高齢者の継続することができる。
8. 適切に計画されたレジスタンストレーニングのプログラムは、高齢者のけがや転倒などの致命的な事故への耐性を向上させることができる。
9. 適切に計画されたレジスタンストレーニングのプログラムは、心理的な健康状態を向上させることができる。

パート4:フレイル、サルコペニア、またはその他の慢性的な状態についての考慮点
10. レジスタンストレーニングのプログラムは、フレイルや可動性の制限、認知障害、またはその他の慢性的な状態をもつ高齢者に対して順応させることができる。
11. レジスタンストレーニングのプログラムは、(持ち運びできる機器や座位で行える代替エクササイズによって)介護付き住宅や高度看護施設に住む高齢者に対しても順応させることができる。

ポジションステイトメントの全文の翻訳記事は、NSCAジャパンWEBサイトに掲載予定です

 

 

参考文献
1. Healthy life expectancy (HALE) at birth (n. d.) Retrieved from
http://apps.who.int/gho/data/node.wrapper.imr?x-id=66