HPCスタッフコラム

2019.08.22

ピリオダイゼーションと筋力・筋量の関係

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ピリオダイゼーションとは、試合や重要な目標に向けてコンディションを最大にするために、論理的かつ体系的に組み立てられたトレーニングを通した過程です(1)。この過程は年間やそれ以上の期間(オリンピック間)といった長期的なもの(マクロサイクル)から数週間の中期的なもの(メゾサイクル)、そして日や週単位の短期的なもの(マイクロサイクル)に分けられます。

またピリオダイゼーションには大きく分けて2つの種類があり、一般的な(伝統的)ピリオダイゼーションであり、強度やボリュームの変化が直線的な線形ピリオダイゼーション(Linear Periodization)と、強度やボリュームをマイクロサイクル内で変動させ、その変動が波のように表されることから波状ピリオダイゼーション(Undulating Periodization)と呼ばれるものがあるがあります。

今回紹介する研究は、上記の二種類のピリオダイゼーションに加えて強度やボリュームを変化させない(ピリオダイゼーションを用いない)トレーニングプログラムが筋力や筋量の獲得に与える効果を比較しています。

 

Different patterns in muscular strength and hypertrophy adaptations in untrained individuals undergoing non-periodized and periodized strength regimens.
ピリオダイゼーションを用いたまたは用いない筋力トレーニングプログラムを行ったトレーニング非経験者における異なる筋力及び筋肥大の適応パターン

De Souza, EO, Tricoli, V, Rauch, J, Alvarez, MR, Laurentino, G, Aihara, AY, Cardoso, FN, Roschel, H, and Ugrinowitsch, C.

J Strength Cond Res 32(5): 1238–1244, 2018

目的
この研究の目的は、ピリオダイゼーションを用いない(NP:non-periodized)、一般的なピリオダイゼーション(TP:Traditional Periodization)または日単位の波状ピリオダイゼーション(UP:Daily Undulating Periodization)のプログラムがトレーニング非経験者における筋力と筋肥大に与える影響を検証した。

被験者
33名の活動的な男性大学生(年齢:19~33歳)

方法
33名の活動的な男性が無作為に4つのグループに分けられた;NP(n=8)、TP(n=9)、UP(n=8)及びコントロール(C:n=8)。介入グループは週二回のセッションからなる12週間の筋力トレーニングプログラムを行った。筋力及び大腿四頭筋の横断面積(QCSA:Quadriceps Cross-Sectional Area)を介入前(ベースライン)、6週(中間点)、及び12週の時点で評価した


表1 研究で使用されたトレーニングプログラム

結果
全てのトレーニンググループにおいてスクワットの1RMがベースラインから6週の時点(NP:17.02%、TP:7.7%、及びUP:12.9%、p ≤ 0.002)、及びベースラインから12週の時点(NP:19.5%、TP:17.9%、及びUP:20.4%、p ≤ 0.0001)で向上した。一般的なピリオダイゼーションはスクワットの1RMが6週の時点から12週の時点の間で向上した唯一のグループであった(9.4%、p≤0.008)。全てのトレーニンググループはベースラインから6週の時点(NP:5.1%、TP:4.6%、及びUP:5.3%、p ≤ 0.0006)及びベースラインから12週の時点(NP:8.1%、TP:11.3%、及びUP:8.7%、p ≤ 0.0001)でQCSAが増加した。6週の時点から12週の時点では、TP及びUPのグループのみにおいてQSAが増加した(それぞれ6.4%、3.7%、p≤0.02)。コントロール群における全ての従属変数において有意な変化は見られなかった(p≥0.05)。

結論・応用
結論として、この結果はNPとピリオダイゼーションを行った12週のプログラムによる同様のトレーニングによる適応を示した。しかしながら、この結果は、この研究の後半において(最初の6週の経過後)ピリオダイゼーションを用いたプログラムがNPプログラムと比較してより大きな筋の適応を引き出すことも示唆している。ストレングスコーチやトレーニング従事者は、ピリオダイゼーションを用いたプログラムはトレーニング非経験者においてもトレーニングの後半において優位であることを理解するべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究ではアスリートではないウェイトトレーニング非経験者を被験者としています。そのことに留意する必要がありますが、興味深い結果が示されたと思います。

まず、筋力に関しては12週間のトレーニングの結果、どの介入群もベースラインから同様に筋力が増加しました。しかしながら、その過程を見ると、最初の6週における筋力向上の効果量がTP群では0.45に対してNP群では0.95でした。これはNP群の適応の早さを示していると考えられます。しかしながら、6週から12週で筋力が有意に増加したのはTP群のみでしたが、効果量をみるとTP群が0.38、UP群が0.58に対しNP群は0.19でした。これらを踏まえると、筋力の向上については短期的な場合は強度や回数を変化させないでトレーニングを行うことで適応を早めることができますが、6週を超えたあたりからその適応が小さくなり、逆にピリオダイゼーションによって計画的に強度やボリュームをコントロールすることでより長期的に適応を促すことができるでしょう。

筋肥大においても似たような結果が示されていて、長期的な適応はTP及びUPのピリオダイゼーションを伴うプログラムにのみ表れました。

これらのことから、トレーニング非経験者や初心者が、筋力や筋肥大を目的としたプログラムにおいて長期的に継続してトレーニングへの適応を望む場合はピリオダイゼーションを用いて計画的なトレーニングプログラムを構築することが必要と言えるでしょう。一方でトレーニング初心者が短期的に急激に筋力を向上させたい場合はピリオダイゼーションを用いない方が効果的かもしれません。

 

参考文献
1. Haff, GG and Triplet, NT (2016) Essentials of Strength Training and Conditioning, Fourth Edition, Champaign, IL: Human Kinetics