HPCスタッフコラム

2019.08.28

動作スピードと体幹筋群の活動量

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プログラムデザインの変数とはトレーニングプログラムを設計するうえで考慮しなければならない要素であり、エクササイズの選択から始まり、回数やセット数、強度、休息時間、テンポ(スピード)などが挙げられます。これらを目的に応じて適切な範囲で設定していくことで最適なトレーニング結果を得ることができます。例として、筋力の向上を目的としたトレーニングプログラムであれば1RMの85%以上の負荷を用いて、1セット当たりの回数は6回以下に設定するといったことが挙げられます(1)。

今回紹介する研究は、プログラムデザインの変数の一つであるスピードが異なることで、体幹筋群の筋活性がどのように変化するかをカールアップエクササイズを用いて検証しています。

 

Influence of trunk curl-up speed on muscular recruitment.
体幹のカールアップのスピードが筋の活性におよぼす影響

Vera-Garcia, F. J., Flores-Parodi, B., Elvira, J. L. L., & Sarti, M. A.

Journal of Strength and Conditioning Research 22(3): 684–690, 2008

目的
エクササイズのスピードは腹部の筋力向上のプログラムを処方する際に考慮するプログラムデザインの変数の一つであるが、現在発表されている文献において、腹部エクササイズ中のスピードが筋の活性に与える影響を分析している研究は少ない。この研究の目的は体幹のカールアップのスピードが筋の活性の大きさに与える影響および体幹筋群がどのように同時に活性されているかを検証することである。

被験者
20名の趣味でトレーニングを行う男女(女性16名、男性4名:年齢23.7±4.3歳、身長166.2±6.3cm、体重61.0±8.2kg)

方法
腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋及び脊柱起立筋の表面筋電図のデータを異なる4つの速度(4秒で1回(C4)、2秒で1回(C2)、1.5秒で1回(C1.5)及び1秒で1回(C1))及び最大速度(Cmax)でのカールアップ中に収集した。筋電図の波形は、自発的最大アイソメトリック収縮(MVICs)時の筋力を用いて平均化及び標準化された。繰り返しのある分散分析を用いて統計分析を行った。

結果
標準化された体幹筋群の筋電図の平均値はカールアップのスピードが上がるにつれて増加した。各スピードで腹直筋(C4でMVICsの23.3%からCmaxでMVICsの49.6%)と内腹斜筋(C4でMVICsの19.2%からCmaxでMVICsの48.5%)が測定された筋の中で最も活性化されていた一方で、外腹斜筋の貢献は速度と共に明らかに増加した(C4でMVICsの5.3%からCmaxでMVICsの33.3)。

結論・応用
体幹のカールアップのスピードを増加させることでより大きな体幹筋群の同時活性が起こり、これはおそらく、より速い動作を行い、そして脊柱の動的な安定性を確保するために必要なためであろう。この結果から、カールアップのスピードは、体幹筋群の動員に大いに影響を及ぼし、そのため腹部のコンディションの向上のためのエクササイズプログラムを処方するうえで考慮しなければならない。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究で明らかになったのは、1)体幹部の筋の活性が、スピードに比例して大きくなったこと、及び2)より速い動作では体幹筋群(主動筋及び拮抗筋)の共縮が起こるという2点です。

1については、動員される筋をより多く活性化させることで重力や抵抗に対してより強い力を産みだしより速い動作を可能にすることが考えられます。Newtonら(2)はベンチプレスエクササイズにおいて同様の結果を得ています。したがって、動作スピードを速くすることで、重い負荷を用いることなくより多くの筋線維を動員することができることを示しています。動作スピードは、負荷設定において重量に加えて強度を変更するための変数として扱えるでしょう。

2つ目の点について興味深いのは、今回の結果で動作スピードが上がるにつれて主動筋の筋活動が大きくなるのはもちろんのこと、拮抗筋である脊柱起立筋の筋活動が速いスピードにおいて大きくなったことです。特に最大速度で行う場合において顕著に活動量が増大していました。これは結論で述べられているように、高速での動作において脊柱を安定させるために体幹筋群を動員していると考えられます。また、この兆候は胴体の動作そのものだけでなく、四肢の動作の中での体幹筋群の動員にも現れています。HodgesとRichardsonの研究によると(3)、腕の拳上動作の速度に比例して体幹筋群の活動量が増加するとしています。これは四肢をより速い速度で動かすためには体幹部の安定性が必要であることを示していると言えるでしょう。

 

参考文献
1. Haff, GG and Triplet, NT (2016) Essentials of Strength Training and Conditioning, Fourth Edition, Champaign, IL: Human Kinetics
2. Newton, R. U., Kraemer, W. J., Häkkinen, K., Humphries, B. J., & Murphy, A. J. (1996). Kinematics, kinetics, and muscle activation during explosive upper body movements. Journal of Applied Biomechanics, 12(1), 31–43
3. Hodges, P. W., & Richardson, C. A. (1999). Altered trunk muscle recruitment in people with low back pain with upper limb movement at different speeds. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 80(9), 1005–1012