HPCスタッフコラム

2019.10.10

遅発性筋肉痛に対するマッサージとエクササイズの効果

画像

遅発性筋肉痛(DOMS:Delayed Onset Muscle Soreness)は強度の高いエキセントリック収縮を伴うエクササイズ後に起こり、症状として、動作時の痛み、圧痛、可動域の低下、筋力の低下などが挙げられます(4)。そのメカニズムは未だに明確になっておらず、エクササイズ後に様々な複合的な要因によって筋に痛みが引き起こされるようです(4)。スポーツにおける筋肉痛は身体の機能が制限されることによる動作の代償などから、障害のリスクを増加させることも考えられます。その遅発性筋肉痛の症状を改善させる方法として、冷却やストレッチ、痛み止めや抗炎症剤などの薬物療法法、マッサージ、エクササイズなどの様々な方法が研究の対象になっています。

マッサージは、筋肉痛の軽減や可動域の増加、軟部組織の改善などに効果があるとされています(1)。特に筋肉痛に関しては、まだまだ研究の余地が多くあるものの、症状の改善においてはマッサージの効果が認められる傾向にあるとされています(2、3)。

また、エクササイズにも筋肉痛を軽減させる方法の一つであり、症状のある筋の癒着をはがす、血流を増加させることで有害物質の除去を促す、またエンドルフィンの分泌を増加させることで痛みを軽減させる(4)とされています。

今回紹介する研究は、遅発性筋肉痛に対するマッサージとエクササイズの効果を比較・検証しています。

 

Acute effects of massage or active exercise in relieving muscle soreness: randomized controlled trial.
筋肉痛を軽減させるためのマッサージまたはアクティブなエクササイズの急性的な効果:無作為コントロール研究

Andersen, LL, Jay, K, Andersen, CH, Jakobsen, MD, Sundstrup, E, Topp, R, and Behm, DG

J Strength Cond Res 27(12): 3352–3359, 2013

目的
マッサージは筋肉痛を軽減させる最適な方法であると一般的に信じられている。しかし、エクササイズによって筋を能動的に温めることは効果的な代替方法になるかもしれない。この研究の目的は筋肉痛を軽減させるためのマッサージの急性的な効果をアクティブなエクササイズと比較することである。

被験者
20名の健康な女性(年齢:32±11歳、身長:169±6 cm、体重:71±15 kg)

方法
参加者はバイオデックスを用いて僧帽筋上部のエキセントリック収縮を行った。その48時間後に遅発性筋肉痛(DOMS:Delayed Onset Muscle Soreness)が生じており、その時点で参加者はa)10分間の僧帽筋のマッサージを受ける、またはb)10分間の能動的なエクササイズ(ショルダーシュラッグ10セットx10回)を弾性抵抗(セラバンド)を増加させながら行った。まず、どちらかの処置を無作為に片方の肩に行い、もう一方の肩は受動的なコントロールとした。2時間後に、処置を受けていない方の肩にもう一方の処置を行った。エキセントリックエクササイズの48時間後に行った処置の直前と直後、10分後、20分後及び60分後に、参加者は筋肉痛の度合いを評価し(0から10までのスケール)、処置の割り当てを知らされていない検査官が僧帽筋上部の痛みを感じる圧力の限界値(PPT:Pressure Pain Threshold)を測定した。

結果
処置の直前では、筋肉痛の度合いは5.0(SD2.2)、PPTは138(SD78)kPaであった。処置に対しての反応では、筋肉痛の度合い(p<0.001)及びPPT(p<0.05)に有意な回縫う効果が見られた。コントロールと比較してアクティブなエクササイズとマッサージの両方は筋肉痛の度合いを有意に低下させ、PPTを有意に増加させた(痛みに対する感受性を低下させた)。両方の処置で、筋肉痛に対する効果は処置直後に表れた一方で、PPTに対する効果は処置の20分後に最も高くなった。

結論・応用
結論として、弾性抵抗を用いたアクティブなエクササイズはマッサージを用いた時と同様の急性的な痛みの軽減をもたらした。コーチやセラピスト、そしてアスリートは、例として、試合や強度の高いトレーニング前にアクティブなウォームアップまたはマッサージのどちらを用いてもDOMSを急性的に軽減することができるが、この効果は一時的であり、この最大の効果は処置後の最初の20分間に表れ、1時間以内に効果がなくなってしまうことに注意するべきである。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、マッサージとエクササイズ共に筋肉痛を軽減させる効果を示しました。またどの時点においても処置間に有意な差はなく、両処置とも筋肉痛を軽減させることには同等の効果があるようです。この研究では主観的な評価(痛みのスケール)と客観的な評価(痛覚を感じる限界圧)の量を用いて評価を行っていますが、両方の評価においても処置間の差は見られませんでした。これまでにマッサージの筋肉痛に対する有効性が示され、また同様の効果がこの研究でも示されました。しかし、マッサージは資格を有する専門家の手を必要とすることから、実際のスポーツ現場における使用は限られてくるでしょう。対して、今回の研究ではエクササイズも同等の効果を示したことから、その用法が確立されれば、スポーツの現場でより容易に活用することができるでしょう。

これらの処置の効果が確認された一方で、今回の研究ではさらにその持続性についても検証されました。これらの処置の効果は主観的には即座に効果を実感でき、PPTについては処置後20分にピークを迎えるとされ、その後は効果が徐々に減少していきました。したがって、マッサージやエクササイズは一時的に痛みを軽減する効果はありますが、急性的な組織の修復を促すわけではないことがうかがえます。

 

参考文献
1. Moraska, A. (2005). Sports massage: A comprehensive review. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness 45, 370–380
2. Ernst, E. (1998). Does post-exercise massage treatment reduce delayed onset muscle soreness? A systematic review. British Journal of Sports Medicine, 32(3), 212–214
3. Best, T.M., Hunter, R., Wilcox, A., and Haq, F. (2008). Effectiveness of sports massage for recovery of skeletal muscle from strenuous exercise. Clinical Journal of Sport Medicine 18, 446–460
4. Cheung, K., Hume, P.A., and Maxwell, L. (2003). Delayed onset muscle soreness: Treatment strategies and performance factors. Sports Medicine 33, 145–164