HPCスタッフコラム

2019.10.23

スクワットの負荷から他のエクササイズの負荷を推定する

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レジスタンスエクササイズの最大挙上重量を知ることは、個々の筋力の指標となり、またトレーニングプログラムを処方する際に目的とする適応を引き起こすための最適な重量を算出することもできます。最大挙上重量の計測は直接的または間接的に行うことができます。

直接的に最大挙上重量を測定する場合は、エクササイズにおいて自身が一回だけ挙上できる最も重い負荷を計測します。しかし、この方法はエクササイズをテクニックがしっかりと習得できていることが前提となり、初心者やエクササイズ経験の浅い人には行うことが難しいでしょう。

研究やトレーニングなどで間接的に最大挙上重量を測定する場合は5RM(Repetition Maximum:最大反復回数)や10RMなどの最大下の重量を用い、換算表や換算式を用いて最大挙上重量を推定します。この方法はエクササイズの初心者でも行いやすいのですが、換算式の正確性には個人差があり、また換算式によって算出された重量はあくまで推定値となります。

直接的または間接的な方法いずれにしても、最大挙上重量を明らかにするには大きな労力を伴います。そのため、実施するエクササイズすべての最大挙上重量を測定するのは現実的ではありません。今回紹介する研究は、スクワットの重量から同様の筋群を動員するエクササイズの負荷を推定できるかどうかを検証しています。

 

Using squat testing to predict training loads for the deadlift, lunge, step-up, and leg extension exercises (squat regression study).
スクワットの測定を用いてデッドリフト、ランジ、ステップアップ、およびレッグエクステンションエクササイズのトレーニング負荷を推測する(スクワットの回帰研究)

Ebben, WP, Feldmann, CR, Dayne, A, Mitsche, D, Chmielewski, LM, Alexander, P, and Knetgzer, KJ.

J Strength Cond Res 22(6): 1947-1949, 2008

目的
この研究の目的は、スクワットの負荷を基準にして大腿四頭筋エクササイズの負荷の予測方程式を作成するためにスクワットと様々な大腿四頭筋を用いるレジスタンストレーニングエクササイズとの間に線形関係があるかどうかを検証することである。

被験者
定期的に下半身レジスタンストレーニングを行う大学生および大学アスリート21名(年齢:20.86±1.85歳、体重:73.98±10.89 kg)

方法
スクワットに加えてデッドリフト、ランジ、ステップアップおよびレッグエクステンションといった大腿四頭筋を動員する一般的なレジスタンストレーニングエクササイズの6RMを各被験者について測定した。データは、スクワットの6RMの重量から大腿四頭筋エクササイズの負荷を予測するために線形回帰分析を用いて評価し、二乗和の統計分析の予測を伴う交差検定を行った。

結果
データの分析により、スクワットはデッドリフト(R2=0.81、SEE(Standard Error of Estimate:推定値の標準誤差)=12.50 kg)、ランジ(R2=0.62、SEE=12.57 kg)、ステップアップ(R2=0.71、SEE=9.58 kg)、およびレッグエクステンション(R2=0.67、SEE=10.26 kg)の負荷の有効な予測因子であることが明らかになった。分析したデータをもとに、次のような6RMの予測方程式を各エクササイズに対して考案した。
a)デッドリフトの負荷(kg)=スクワットの負荷×0.83+14.92
b)ランジの負荷(kg)=スクワットの負荷×0.52+14.82
c)ステップアップの負荷(kg)=スクワットの負荷×0.50+3.32
d)レッグエクステンションの負荷(kg)=スクワットの負荷×0.48+9.58

結論・応用
スクワットのようなコアエクササイズの測定の結果からほかのエクササイズの負荷を処方する際の有用なデータを得ることができる。

オリジナルの文献はこちら

 

今回対象となった大腿四頭筋エクササイズすべてについてスクワットの回帰式で負荷を推定できることがこの研究で示されました。冒頭で述べた通り、すべてのエクササイズについて最大挙上重量を測定することは困難であるため、このような回帰式を用いてエクササイズの重量を推定できることはS&Cコーチやパーソナルトレーナーにとって非常に有用でしょう。特に初めてこれらのエクササイズを処方する際は、どれほどの重量ができるのか考えなければなりませんが、これらの回帰式を用いることで大まかなガイドラインとしての重量をあらかじめ設定することができるでしょう。もちろん、実際に処方した後に選手やクライアントの動作を見ながらその後のセットの重量を調整する必要があるでしょう。

著者らはこれらの回帰式が当てはまるのは動員される筋群や動作の可動域が似ているためであるとしています。実際にスクワットを用いてハムストリングスを主に動員するエクササイズに対する回帰式を考案しようとした研究では、レッグカールにおいて最も低い値を示し、股関節の伸展を主とするデッドリフトやその派生種目ではR2の値が0.8前後と高い値を示しました(1)。

この研究の結果をもとにして、S&Cコーチやパーソナルトレーナーは選手やクライアントのスクワットの挙上重量を測定することで、似たようなエクササイズを処方する際の重量のガイドラインを設定できるでしょう。

参考文献
1. Ebben, W. P., Long, N. J., Pawlowski, Z. D., Chmielewski, L. M., Clewien, R. W., & Jensen, R. L. (2010). Using squat repetition maximum testing to determine hamstring resistance training exercise loads. Journal of Strength and Conditioning Research, 24(2), 293–299