HPCスタッフコラム

2019.11.14

音楽がランニングとその回復へ与える効果

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スポーツのパフォーマンスに心理面が影響をあたえることは多くの研究で証明されています(1)。スポーツのパフォーマンスに対する心理的な影響として、気分の高揚や、緊張などがあげられます。

気分を高揚させるために、一般的に使用されるものとして音楽があります。音楽を使用することで、身体的な苦痛から焦点をそらしたり(2)、情動反応を向上させたりすること(3)によってスポーツのパフォーマンスを向上させるとこれまでの研究で示されています。さらに、音楽には反対の効果もあり、身体を落ち着かせる効果もあります。ストレスによって増加した血圧がクラシック音楽を聴いた後に大きく低下したとの報告(4)もあり、運動後の回復にも効果的であるとも考えられます。

今回紹介する研究は、モチベーションを高める音楽を聴くタイミングが有酸素運動に与える影響と、運動後に聞く落ち着いた音楽が回復に与える影響を検証しています。

 

How does music aid 5 km of running?
音楽がどのように5 km走を補助するか?

Bigliassi, M, León-Domínguez, U, Buzzachera, CF, Barreto-Silva, V, and Altimari, LR.

J Strength Cond Res 29(2): 305–314, 2015

目的
この研究は5 km走において音楽とそれを用いるタイミングの効果を検証した。

被験者
15名のよくトレーニングされた男性長距離ランナー(年齢:24.87 ± 2.47歳、体重:78.87 ± 10.57 kg身長:178 ± 07 cm)

方法
15名の長距離ランナーがこの研究に参加した。公式のトラックでの5km走時に5つの介入条件を無作為の順で行った;PM:5km走前にモチベーションを高める曲を聴く、SM:5km走時にゆっくりとしたテンポのモチベーションを高める曲を聞く、FM:5km走時に速いテンポのモチベーションソングを聞く、CS:落ち着いた曲を5km走後に聞く、CO:コントロール)。心理・身体面のアセスメントを5km走の前(NIRS脳計測装置、心拍変動(HRV)、誘発性、覚醒度)、最中(タイム、心拍数、自覚的運動強度(RPE))、および後(ムード、RPE、HRV)に行った。
*NIRS脳計測装置:近赤外線を用いて非侵襲的に脳機能をマッピングする機器

結果
選択された曲は快適で活性化させられると考えられた。さらに、これらの曲は前頭前皮質(PFC)の評価対象の3カ所(中間、右背外側、左背外側)を同様に活性化させ、自律神経系の分析からプラスの感情の変化を引き出した。他の条件と比較してSMとFMにおいて最初の800mのタイムが早かった(p≦0.05)。さらに、音楽を用いることでランニングパフォーマンスを向上させる高い確率が見られた(SM:89%、FM:85%、PM:39%)。最後に、音楽は、CSにおいて5km走後に迷走神経の機能を加速させることがわかった(p≦0.05)。

結論・応用
結論として、音楽はPFCを活性化し、知覚を最小限に抑え、パフォーマンスを向上させ、5km走の回復を促進させる。

オリジナルの文献はこちら

 

回の研究においては、総合的なタイムにグループ間の有意な差は出ませんでした。しかしながら、ラップごとの細かい分析を見てみると、音楽を聴きながら走ったグループに関しては最初の2週において有意に速いラップタイムが見られました。この傾向は生理的な反応にも見られ、前頭前皮質を活性化させるとともに、迷走神経の機能を低下させ(副交感神経をオフにする)ランニングに対して状態を向上させることが示されました。Barwoodらの研究(1)では、高強度のエクササイズ中に音楽を聴くことでパフォーマンスが向上したと報告しており、この著者らは音楽によって内的な身体の感覚ではなく外的な要素(音楽や映像)に意識を集中することでパフォーマンスを向上させたと考えています。現にこの研究でも音楽が脳の情動や動機付けをつかさどる前頭前皮質を刺激しており、これによって気分が高揚しランニングのパフォーマンスが向上したと考えられます。

また興味深いのは、運動後に落ち着いた音楽を聴くことで、迷走神経の機能を加速させ(副交感神経をオンにし)回復を促進させることが示されたことです。JingとXudongの研究でもリラックスした曲を運動後に聞くことで心理面(RPE:自覚的運動強度)だけでなく、心拍数などの生理的な面で効果があったとの報告もあります(6)。似たような研究で、回復中にモチベーションを高める音楽を聴くことで活動量が増加し、それによって乳酸の除去が加速するとの報告もあります(5)。

まだまだ多くの研究が必要な分野ではありますが、音楽はパフォーマンスや回復を促進させるという面では効果的なようです。

 

参考文献
1. Brown, D.J., and Fletcher, D. (2017). Effects of Psychological and Psychosocial Interventions on Sport Performance: A Meta-Analysis. Sports Medicine 47, 77–99
2. Barwood, M. J., Weston, N. J. V., Thelwell, R., & Page, J. (2009). A motivational music and video intervention improves high-intensity exercise performance. Journal of Sports Science and Medicine, 8(3), 435–442
3. Eliakim, M., Meckel, Y., Gotlieb, R., Nemet, D., and Eliakim, A. (2012). Motivational music and repeated sprint ability in junior basketball players. Acta Kinesiologiae Universitatis Tartuensis 18, 29
4. Chafin, S., Roy, M., Gerin, W., & Christenfeld, N. (2004). Music can facilitate blood pressure recovery from stress. British Journal of Health Psychology, 9(3), 393–403
5. Eliakim, M., Bodner, E., Meckel, Y., Nemet, D., & Eliakim, A. (2013). Effect of rhythm on the recovery from intense exercise. Journal of Strength and Conditioning Research, 27(4), 1019–1024
6. Jing, L., & Xudong, W. (2008). Evaluation on the effects of relaxing music on the recovery from aerobic exercise-induced fatigue. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 48(1)