HPCスタッフコラム

2019.11.20

腰痛改善のためにデッドリフトを導入するには?

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少し古いデータになりますが、米国では年に1500万人が腰痛のために医療機関を訪れたとされています(1)。腰痛の原因や受傷起点、メカニズムは様々で今までに様々な研究がなされてきています。エクササイズを用いた改善プログラムについても多くの研究がなされており、その多くで症状の改善が報告されています(2、3)。デッドリフトは、間違ったテクニックによって腰部にかかる負担が増加することもあり腰痛患者には敬遠されてきた種目の一つです。しかし、正しく行うことで、多くの腰痛患者に共通する股関節筋群や腰部伸展筋群の筋力低下を改善するのに適していると考えられます。Aasaらの研究(2)ではデッドリフトの腰痛に対する効果を検証しており、デッドリフトを行うことで腰痛からの痛みの強度が改善し、また筋力や筋持久力が向上したと報告しています。

今回紹介する研究は、デッドリフトを腰痛患者に処方する際に、デッドリフトから効果を得るために必要となる要因を明らかにしています。

 

Which patients with low back pain benefit from deadlift training?
デッドリフトの効果があるのはどの腰痛患者か?

Berglund, L, Aasa, B, Hellqvist, J, Michaelson, P, and Aasa, U.

J Strength Cond Res 29(7): 1803–1811, 2015

目的
近年の研究はデッドリフトが、すべてではないものの多くの最も多いパターンの腰痛を患う患者において痛みを和らげ活動量を増加させるのに効果的である可能性を示している。この研究は、リハビリエクササイズとしてのデッドリフトを含む8週間のトレーニング後の腰痛患者の活動、機能障害、そして痛みの強度を、介入前に基準値として測定されたどの要素をもって推測できるかを評価することを目的とする。

被験者
35名の腰痛を患う被験者(男性15名、女性20名、年齢:42±10歳、身長:174±8 cm、体重:74±13 kg)

方法
被験者は、パワーリフティングの経験のある理学療法士の監督のもとデッドリフトのトレーニングを行った。痛みに関連した動作への不安、股関節および体幹筋群の筋持久力、腰椎骨盤の動きのコントロールの数値をトレーニング前の基準値として収取した。活動、機能傷害および、痛みの強度の測定値をトレーニング前およびフォローアップ時に収集した。フォローアップ時に、活動、機能障害、そして痛みの強度を推測するモデルを作成するために直線回帰分析を用いた。

結果
この研究の結果は、トレーニング前に機能障害が軽く、痛みの強度が小さく、そして股関節および腰部伸展筋の筋持久力を測定するBiering-Sorensenテストで高いパフォーマンスを示した患者は、デッドリフトによる効果があることを示した。Biering-Sorensenテストは、すべての予測モデルに含まれたため、最も信頼性のある予測因子であった。痛みの強度が次に信頼性のある予測因子であり、2つの予測モデルに含まれた。

結論・応用
したがって、腰痛患者に対してデッドリフトをリハビリのエクササイズとして用いるストレングス&コンディショニングの専門家にとって、クライアントが腰部伸展筋の筋力および筋持久力を要し、痛みの強度が十分に低いレベルであることを確認することがデッドリフトエクササイズからの効果を得るために重要である。

オリジナルの文献はこちら

 

腰痛患者に多く見られるパターンとして、動作パターンの機能障害や動員される筋群の活性傷害や萎縮などがあげられ(4)、腰痛の改善プログラムとしてこれらの機能の改善エクササイズが取り入れられます。デッドリフトはこれらの筋群に負荷をかけることで筋の活性を促進させ、またそれによって筋肥大の効果も望まれます。これまでもケーススタディから無作為比較試験においてもデッドリフトの短期的および長期的な効果が確認されてきました(2、4、5)。

今回紹介した研究において、デッドリフトの恩恵を受けるためには、デッドリフトエクササイズの実施に際して、十分な股関節および腰背部の筋力および筋持久力を要している必要があることが明らかになりました。このことから、デッドリフトを取り入れる前に、腰部への負荷を適切にするためのエクササイズテクニックの獲得はもちろんのこと、腰背部や体幹の筋群のエクササイズによって、適切な筋力および筋持久力を獲得する必要があるでしょう。

いずれにしても、腰痛を長期的に改善に改善させ活動や機能を向上させるためには、エクササイズや運動によって関連した筋群の機能や状態を向上させるといった積極的な介入が必要でしょう。

 

参考文献
1. Gary Hart, L., Deyo, R.A., and Cherkin, D.C. (1995). Physician office visits for low back pain: Frequency, clinical evaluation, and treatment patterns from a u.s. national survey. Spine 20, 11–19
2. Aasa, B., Berglund, L., Michaelson, P., and Aasa, U. (2015). Individualized low-load motor control exercises and education versus a high-load lifting exercise and education to improve activity, pain intensity, and physical performance in Patients with Low BACK pain: A Randomized controlled trial. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy 45, 77–85
3. Elnaggar, I.M., Nordin, M., Sheikhzadeh, A., Parnianpour, M., and Kahanovitz, N. (1991). Effects of spinal flexion and extension exercises on low-back pain and spinal mobility in chronic mechanical low-back pain patients. Spine 16, 967–972
4. Holmberg, D., Crantz, H., & Michaelson, P. (2012). Treating persistent low back pain with deadlift training A single subject experimental design with a 15-month follow-up. Advances in Physiotherapy, 14(2), 61–70
5. Michaelson, P., Holmberg, D., Aasa, B., & Aasa, U. (2016). High load lifting exercise and low load motor control exercises as interventions for patients with mechanical low back pain: A randomized controlled trial with 24-month follow-up. Journal of Rehabilitation Medicine, 48(5), 456–463