HPCスタッフコラム

2019.11.28

筋力向上とビタミンD

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ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける役割があり、このビタミンが欠乏することにより子どもではくる病、大人では骨軟化症といった骨関連の疾患が起きやすくなります。さらに、ビタミンDは正常な筋機能にも必要であり、一部の研究ではビタミンDの適切な摂取により1型の糖尿病や癌などの予防につながるとの報告もあります。(2)。

ビタミンDの主な供給源は紫外線(UVB)が皮膚に当たることでビタミンDが生成されることによります。食品では鮭やサバなどの魚類に多く含まれ、またビタミンのサプリメントの中にも含まれます(1)。しかし、食品では十分なビタミンDを摂取することは難しく、米国などでは牛乳などにビタミンDを追加することが義務づけられています。日焼け止めや衣服などで皮膚を覆うことでビタミンDの生成が阻害され、また肌の色が濃い人ほど皮膚でのビタミンDの生成が少なくなります(1)。近年は、過度の日焼けによる健康被害などから日光へさらされる機会が少なくなってきており、それに伴ってビタミンDの欠乏が大きな健康問題となってきています。

健康に対する効果だけでなく、ビタミンDの効果はスポーツのパフォーマンスにも及びます。ビタミンDの摂取量の増加は炎症や痛みの軽減し、筋のたんぱく合成や身体のパフォーマンスの向上につながると報告されています(3、5)。今回紹介する文献は、ビタミンDのサプリメントの摂取が筋力に与える効果をまとめ、検証しています。

 

Effects of vitamin D supplementation on muscle strength in athletes: A systematic review.
アスリートにおいてビタミンDのサプリメント摂取が筋力に与える効果:システマティックレビュー

Chiang, C-m, Ismaeel, A, Griffis, RB, and Weems, S.

J Strength Cond Res 31(2): 566–574, 2017

目的
この研究論文のシステマティックレビューの目的は、ビタミンDサプリメントの摂取がアスリートにおける筋力に与える効果を調査することである。

方法
3つのデータベース(PubMed、MEDLINE、Scopus)上でコンピュータ処理を用いた論文検索を行った。レビューに含まれる文献は、ランダム化比較試験(RCT;Randomized Control Trail)で、英語で執筆され、18歳から45歳の健康な競技選手の血中ビタミンD濃度と筋力を測定したものである。文献の質はPEDroスケールを持ちて評価した。

結果
5つのRCTおよび1つの比較試験が見つかり、文献の質の評価では5つが「優良」で1つは「良」であった。試験は4週間から6ヶ月の間の期間で行われ、投与量は一日に600から5,000 IU(International Unit:国際単位)であった。ビタミンD2が投与された研究では、2つの研究の両方で筋力に対する効果は見られなかった。反対に、ビタミンD3は筋力に対してプラスの効果を示した。2つの研究において、筋力の数値がサプリメント摂取後に有意に向上した(p≦0.05)。ビタミンD3を投与した他の2つの研究では、筋力が増加する傾向が見られた。具体的には、筋力の向上は1.37から18.75%の範囲であった。この関係性を確認するためにはさらなる研究が必要である。

オリジナルの文献はこちら

 

アスリート(活動的な人)を対象にした質の高い研究をレビューした今回の文献において、ビタミンD3には筋力の向上を促進させる効果(またはその傾向)があることが明らかになりました。ビタミンDの摂取が骨に与える影響は古くから注目されていましたが、近年は筋や身体のその他の部位へ与える影響も明らかになってきています。ビタミンDの欠乏は筋力の低下と関係し(4)、また適切に摂取することで、炎症マーカーの減少や、筋力やパワーの産出の向上も示されています(5)。しかし、どのレビュー文献もまだまだ質の高い研究が不足しており、断定的な結論は出せないとしています。多くの研究者は、国が定める推奨摂取量(日本:5.5 ㎍(220 IU)(日本人の食事摂取基準(2015年版))、米国400 IU)よりも多く摂取することを推奨していますが、推奨する摂取量を定めようにも、エビデンスが不足しており、断定的な数値を定めるのは困難であるとしています。

研究者らは、適切なパフォーマンスを保つために定期的に血中のビタミンD濃度を測定することが望ましく、不足している場合は日光に当たる時間を増やしたり、サプリメントなどで補ったりするのが効果的としています(4、5)。日光からビタミンDを得る場合、日焼け止めをせずに5分から30分ほど日光(UVB)にあたることで十分な量が得られるようです(5、6)。ビタミンDが欠乏することで、様々な健康やパフォーマンスへの影響があるだけでなく、摂取により筋力こやパフォーマンスの向上効果も期待できることから、このビタミンが不足がちな人は食品やサプリメントからの積極的な摂取や日光にあたる時間を増やすなどして、体内のビタミンD濃度を適切に保つよう心掛けるとよいでしょう。

 

参考文献
1. Holick, M. F., & Chen, T. C. (2008). Vitamin D deficiency: A worldwide problem with health consequences. American Journal of Clinical Nutrition, 87(4)
2. Holick, M.F. (2006). High prevalence of vitamin D inadequacy and implications for health. Mayo Clinic Proceedings 81, 353–373
3. Shuler, F.D., Wingate, M.K., Moore, G.H., and Giangarra, C. (2012). Sports Health Benefits of Vitamin D. Sports Health 4, 496–501
4. Hamilton, B. (2011). Vitamin D and athletic performance: The potential role of muscle. Asian Journal of Sports Medicine 2, 211–219
5. Dahlquist, D.T., Dieter, B.P., and Koehle, M.S. (2015). Plausible ergogenic effects of vitamin D on athletic performance and recovery. Journal of the International Society of Sports Nutrition 12
6. 海外の情報. (n.d.). Retrieved from https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/17.html