HPCスタッフコラム

2020.01.22

スーパーセットの構成方法

画像

アスリートのS&Cトレーニングプログラムを作成する際、筋力や筋量の向上に始まり、傷害予防、さらには機能改善のためと様々なエクササイズを組み合わせる必要があり、またS&Cトレーニングに割り当てられる時間も限られることら、その効果性に加えて効率性も求められます。

スーパーセット法は異なるエクササイズを組み合わせて交互に行う方法で、トレーニング効率を向上させることができます(1)。現にアスリートを対象とした多くのトレーニングプログラムにおいてスーパーセットやさらにはトライセットが多く用いられています。またアスリートのみならず、トレーニング効率を向上させた場合にも多く使用されます。HPCにおいてもほとんどのトレーニングプログラムにスーパーセットやトライセットが組み込まれています。

今回紹介する研究は、異なるスーパーセットの構成がバーベルベンチプレスにおける力発揮やバーベルの速度などに与える影響を検証しています。

 

The effects of superset configuration on kinetic, kinematic, and perceived exertion in the barbell bench press.
スーパーセットの構成がバーベルベンチプレスのキネティックス、キネマティックス、および運動強度に与える影響

Weakley, JJS, Till, K, Read, DB, Phibbs, PJ, Roe, G, Darrall-Jones, J, and Jones, BL.

J Strength Cond Res 34(1): 65–72, 2020

目的
効率的で効果的なトレーニングはアスリートにとって非常に重要である。効率を向上させる一つの方法は、レジスタンストレーニングの方法にスーパーセットを取り入れることである。しかし、スーパーセットの組み立てる方はまだ明確にされていない。したがって、この研究の目的は、主動筋-拮抗筋(A-A:Agonist-Antagonist)、上半身-下半身(A-P:Alternate Peripheral)、そしてバイオメカニクス的に近い種目同士(SB:Similar Biomechanical)のスーパーセットの構成がベンチプレス中の自覚的運動強度(RPE:Rating of Perceived Exertion)、キネティックス、およびキネマティックスに及ぼす影響を評価することである。
*キネティックス:運動を起こすための力を考察する力学の部門
*キネマティックス:変位や速度などを記述する力学の一つの部門

被験者
10名のラグビー選手(平均±標準偏差(SD)、年齢:20.9 ± 0.6歳、身長:183.2 ± 6.1 cm、体重:90.2 ± 9.6 kg、バーベルベンチプレス3RM :114.3 ± 10.3 kg、バックスクワット3RM:139.7 ± 27.9 kg、ベントオーバーロウ3RM:101.1 ± 12.0 kg、DBベンチプレス3RM:87.5 ± 11.6 kg)

方法
10名の被験者が無作為クロスオーバー方法でレジスタンストレーニングのプロトロルを行い、大きさに基づく推論(MBI:Magnitude-Based Inference)を用いてプロトロル内およびプロトロル間の変化・差異を評価した。

結果
自覚的運動強度における変化は、A-Aと比較したときA-PとSBのプロトコルにおいてより大きいという可能性はそれぞれ、高い(very likely)、およびほぼ確実(almost certainly)であった一方で、すべてのスーパーセットのプロトコルにおいてベースラインからの平均速度と平均パワーの低下の可能性は高い(very likely)からほぼ確実(almost certainly)の範囲であった。平均速度とパワーの低下の可能性はSBプロトコルにおいてほぼ確実であり、A-AとA-P間の差は明確ではなかった。力の最大値の減少の可能性はA-AおよびSBにおいてそれぞれ高い、およびほぼ確実でありA-Pにおける変化は明確ではなかった。これらのプロトコル間の差異においてA-Aと比較してSBの力の最大値の低下がより大きい可能性が高く、他のスーパーセットの比較においては明確ではなかった。

結論・応用
この研究は、トレーニングにスーパーセットを取り入れる際のエクササイズの選択の重要性を示した。現場の人間は、バーベルのベンチプレスにおいて、トレーニングの効率を向上させ、主動筋のキネティックスとキネマティックスの出力の低下を最小限にするためにA-Aのスーパーセット法を用いることが推奨される。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、ベンチプレス時のパワーやバーベルの速度の低下を最小限にするには主動筋-拮抗筋の組み合わせや上肢下肢の組み合わせといった方法が最適であることが示されました。つまりベンチプレスのトレーニングボリュームを多くする中でもトレーニング負荷を高く維持したいときは、懸垂などの上半身のプルエクササイズや下肢のエクササイズを組み合わせるのが良いでしょう。しかし、バーベルの速度やパワー、力発揮の維持おいては一般的なトレーニング方法(単一エクササイズのみ)のほうが優れていました。そのため、クリーンなどのウェイトリフティングエクササイズや高負荷のスクワットやベンチプレスなど大きな力発揮やパワーを必要とするエクササイズではスーパーセットを組まないほうがよいでしょう。

また、自覚的運動強度はスーパーセットにすることで増加することも示されました。そのため、普段から運動をしていない人や低体力者に対するトレーニングでは、負荷の高いエクササイズを組み合わせたスーパーセットは強度が高くなりすぎてしまうでしょう。さらに、他の研究では、トレーニング効率を向上させると同時に、身体への負担や筋損傷が大きくなり回復により時間がかかることも示されています(2、3)。

スーパーセットはトレーニング効率を向上させることのできますが、その目的や状況に応じてエクササイズの組み合わせを変更したり、一般的なトレーニング方法を用いたりと、その長所と短所を考慮して使い分けることが重要です。

 

参考文献
1. Robbins, D.W., Young, W.B., and Behm, D.G. (2010). The effect of an upper-body agonist-antagonist resistance training protocol on volume load and efficiency. Journal of Strength and Conditioning Research 24, 2632–2640
2. Weakley, J.J.S., Till, K., Read, D.B., Roe, G.A.B., Darrall-Jones, J., Phibbs, P.J., and Jones, B. (2017). The effects of traditional, superset, and tri-set resistance training structures on perceived intensity and physiological responses. European Journal of Applied Physiology 117, 1877–1889
3. Brentano, M.A., Umpierre, D., Santos, L.P., Lopes, A.L., Radaelli, R., Pinto, R.S., and Kruel, L.F.M. (2017). Muscle Damage and Muscle Activity Induced by Strength Training Super-Sets in Physically Active Men. Journal of Strength and Conditioning Research 31, 1847–1858