HPCスタッフコラム

2020.02.21

ジュニアアスリートに対する方向転換スピードのためのトレーニング

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多くのスポーツにとってアジリティは非常に重要なパフォーマンス要素です。アジリティは「刺激に反応した速度の変化や方向転換を伴う急速な全身の動作(1)」であるといわれています。方向転換のスピードはそのアジリティの一つの要素であり、そのパフォーマンスはスプリントの速度や加速力、膝関節屈曲のエキセントリック筋力、そしてリアクティブストレングスなどと関係があるとされていますが(2、3)、実際には数多くの身体要素が複雑に関係していると考えられます。

今回紹介する研究は、ジュニア年代のアスリートにおいて方向転換スピードを向上させるためのトレーニング方法を比較し検証しています。

 

How to improve change-of-direction speed in junior team sport athletes—Horizontal, vertical, maximal, or explosive strength training?
ジュニア年代のチームスポーツアスリートの方向転換スピードを向上させる方法-水平方向の跳躍、垂直方向の跳躍、最大筋力それとも爆発的筋力のトレーニング?

Keller, S, Koob, A, Corak, D, von Schöning, V, and Born, DP.

J Strength Cond Res 34(2): 473–482, 2020

目的
この研究の目的は4つの異なるトレーニング方法がジュニア年代のチームスポーツのアスリートの方向転換(COD:Change of Direction)スピードに対する効果を比較することである。具体的に、横方向への加速と減速がを含む水平方向への負荷を用いたトレーニングが、CODスピードに対するパフォーマンスの適応において、一般的な垂直方向中心の最大筋力(スクワットとデッドリフト)、爆発的筋力(パワークリーンとハイプル)、および垂直飛びエクササイズのトレーニングと比較して優れているかを検証した。

被験者
若い15歳以下のチームスポーツ(サッカー、ハンドボールまたはバスケットボール)のアスリート(n=45、年齢14±0.8歳(範囲:12-15歳)、体重63±14 kg、身長175±11 cm)

方法
15歳以下のチームスポーツの男子アスリート(n=45)は4つのグループのうちの1つに振り分けられ、それぞれのスポーツの通常のトレーニングに加えて4週にわたって週に2回の介入トレーニングセッションを行った。トレーニング期間の前後に、CODスピード、反動を用いた垂直飛びおよびドロップジャンプの跳躍高、片脚ラテラルジャンプ、そして立ち幅跳びのパフォーマンスを評価した。

結果
4つのすべてのトレーニンググループでCODスピードが向上した(p≦0.01、効果量(ES:Effect Size≧1.35)。反動を用いた垂直飛びと片脚ラテラルジャンプのパフォーマンスは、水平方向への負荷(それぞれp < 0.01、ES = 0.81;p < 0.01、ES = 1.36)、最大筋力(それぞれp = 0.01、ES = 0.56;p < 0.01、ES = 1.14)および爆発的筋力(それぞれp < 0.01、ES = 0.95;p < 0.01、ES = 1.60)のトレーニングにおいて向上した。立ち幅跳びは、最大筋力(p < 0.01、ES = 1.14)および爆発的筋力(p < 0.01、ES = 0.60)のトレーニングにおいて向上した。

結論・応用
結論として、4つのすべてのトレーニング方法においてジュニア年代の15歳以下のチームスポーツ選手のCODスピードが向上した。これらの結果は、優れたCODスピードに貢献する、よく発達した下半身の筋力とパワーの重要性を強調している。現場の視点から、ジュニア選手のコンディショニングプログラムは水平方向と垂直方向のエクササイズを組み込むことができ、CODスピードに対して同様の効果が期待できる。。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究では、水平方向へ負荷をかけたトレーニングに加えて最大筋力と爆発的筋力のトレーニングによってCODスピードが向上することが示されました。さらに垂直方向への跳躍トレーニングによってもCODのスピードの向上が示されました。より筋力の発達したアスリートに対してはより特異的な水平方向へのトレーニングが効果的であると研究者らは述べていますが、筋力がいまだ未発達なジュニア年代のアスリートに対してはこの研究の対象になったいずれかのトレーニング方法、またはそれらの組み合わせでCODのパフォーマンスを向上させることが示されました。

方向転換のパフォーマンスには減速、方向転換、加速の3つの局面があり、そのいずれか、またはすべてを向上させることで方向転換スピードのパフォーマンスを向上させることができます。筋力などの身体的要素に加え、重心(Center of Mass:COM)のコントロールといった技術的な要素も大きく方向転換スピードのパフォーマンスに関係してくるため、この研究で用いられたトレーニング方法はそれぞれが特異的に、異なる局面のパフォーマンスを改善させたのではないかと研究者らは考察しています。つまり、横方向への跳躍を含む水平方向へのトレーニングはCOMのコントロール、最大筋力や爆発的筋力は減速や加速に必要な筋力をそれぞれ向上させたことでCODのパフォーマンスが向上したということです。

最後に、ジュニア年代のアスリートに対しては様々なトレーニング方法が効果的であるといえますが、それぞれの選手の発達に応じて必要となる身体的要素や技術的要素を明らかにしそれらを向上させるためのトレーニングを処方することでより効果的にパフォーマンスを向上させられるのではないでしょうか。

 

参考文献
1. Sheppard, J., and Young, W. (2006). Agility literature review: Classifications, training and testing. Journal of Sports Sciences 24, 919–932.
2. Jones, P., Bampouras, T.M., and Marrin, K. (2009). An investigation into the physical determinants of change of direction speed. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness 49, 97–104
3. Young, W.B., Miller, I.R., and Talpey, S.W. (2015). Physical qualities predict change-of-direction speed but not defensive agility in australian rules football. Journal of Strength and Conditioning Research 29, 206–212