HPCスタッフコラム

2020.03.26

エキセントリック局面の持続時間

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エキセントリックトレーニング、つまり筋活動のエキセントリック局面のみ、またはエキセントリック局面を強調したトレーニングは、他の方法と比較して筋機能を向上させ、筋腱複合体の適応を促し、筋力、パワー、スピードのパフォーマンスの向上に特に友好的であるとされています(1)。エキセントリック局面はコンセントリック局面よりもより大きな重量で行えることからこのような効果が望めると考えられています。

今回紹介する研究は、エキセントリック局面の持続時間を変化させることが、筋力やパワー発揮をはじめ、パフォーマンス、筋肉痛などへどのような効果があるかを検証しています。

 

The effects of eccentric contraction duration on muscle strength, power production, vertical jump, and soreness.
エキセントリック局面の収縮時間が筋力、パワー発揮、垂直飛び、および筋肉痛に与える影響

Mike, JN, Cole, N, Herrera, C, VanDusseldorp, T, Kravitz, L, and Kerksick, CM.

J Strength Cond Res 31(3): 773–786, 2017

目的
これまでの研究では、筋力とパワー発揮に対するエキセントリック局面のみのトレーニングの効果の検証やエキセントリックとコンセントリックエクササイズの比較をしてきたが、これらのパラメーターに対してコンセントリックまたはエキセントリック局面の持続時間を変化させることでの影響は検証されていない。したがって、この研究の目的は重量を用いたスミスマシーンスクワットエクササイズを用いて、エキセントリック局面の持続時間(例:2秒vs4秒vs6秒)および、それぞれが筋力、パワー発揮、垂直跳びおよび筋肉痛に与える効果を評価することである。

被験者
30名の大学年代の男性(年齢:23.5±3.5歳、身長:178±6.8 cm、体重82±12 kg、体脂肪率:11.6±5.1%)で3.0±1.0年のレジスタンストレーニング経験を持ち、トレーニング頻度は週に4.3±0.9日であった。

方法
30名の大学年代の男性が異なる収縮のパターンを行う3つのエキセントリックトレーニンググループの一つに無作為に振り分けられた。それぞれのレップにおいて、3つすべてのグループは2秒間のコンセントリック局面と1秒間の静止をコンセントリック局面とエキセントリック局面の間に設けた。コントロールグループ(2S)は2秒間のエキセントリック収縮をおこない、4Sグループは4秒間の、6Sグループは6秒間のエキセントリック収縮を行った。すべての試技はスミスマシーンにおけるスクワットを用いて行った。すべての参加者は処方された収縮様式を用いて最大挙上重量(1RM)の80~85%の強度で6回を4セット行うトレーニングを週に2回行う4週間のトレーニングプログラムを完了した。

結果
全てのパフォーマンスデータにおいて、有意なグループ×時間(G×T:Group×Time))の交互作用が平均パワー薄筋居ついてスクワットジャンプ3セットすべてにおいてみられた(p=0.04)が、一方で垂直跳びにおいては有意性には届かったものの差異の傾向(G×T、p=0.07)が見られた。そのほかの有意なG×Tの相互作用はパフォーマンス変数について見られなかった(p>0.05)。すべてのグループは1RM(p<0.001)、垂直跳び(p=0.004)、ピークパワー(p<0.001)、そして平均パワー(p<0.001)において時間の有意な主作用を示した。ピーク速度のデータは、4週間のトレーニングプログラムの結果として、6Sグループのスクワットジャンプ時のピーク速度が有意に減少したことを示した(p=0.03)。筋肉痛のデータは、すべてのグループにおいて0週目と4週目の両方において期間にわたった増加を示した。対応のあるt検定によって2Sグループにおいて期間にわたって筋肉痛の値により大きな差があることを示された。

結論・応用
この結果は、エキセントリック局面が主の動作パターンを伴うレジスタンストレーニングがトレーニング経験のある大学生年代の男性において、急性的に最大筋力とパワー発揮を向上させる効果的な方法になり得るというさらなるエビデンスを示した。さらに、より長いエキセントリック収縮は垂直飛びなどの爆発的な動作に負の影響を与えるかもしれず、一方で短いエキセントリック収縮はより大きな筋肉痛を引き起こすであろう。これらは、ストレングス&コンディショニングの専門家にとってエキセントリックトレーニングを通した筋力とパワーの発揮、およびエキセントリック活動の様々な収縮時間がピークパフォーマンスを求めるアスリートをはじめとする人たちにとって顕著な影響を及ぼすということを完璧に理解するために重要な考慮点である。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究で明らかになったのは、まず、エキセントリックトレーニングによって、筋力、垂直跳びの跳躍高、パワーの値に介入前後で向上が見られたことです。さらに興味深いのは垂直跳び時の速度のピークにおいては遅い収縮速度でのエキセントリックトレーニング(6S)によって速度が有意に低下したことが示されました。筆者らはエキセントリック局面で時間をかけすぎることによって伸長‐短縮サイクルが阻害されコンセントリック局面での出力低下が起き、その状態でトレーニングを行っていたためとしています。これは垂直跳びの跳躍高にも表れ、長い収縮時間のグループ(4S、6S)には変化が見られなかったものの短い収縮時間のグループにおいては向上が見られたことが示されました。先行研究でも似たような傾向が見られ、Farthingら(1)の研究では、速い速度のエキセントリックトレーニングのほうがコンセントリックのみまたは遅い速度のエキセントリックトレーニングよりも筋肥大および筋力の向上が大きかったと報告しています。

エキセントリックトレーニングはトレーニングのみならず腱の炎症のリハビリに対しても有効的な手段ですが(3)、スポーツパフォーマンスの向上を目的としたトレーニングにエキセントリックトレーニングを取り入れる場合は収縮時間を短くしたほうが良いでしょう。

 

参考文献
1. Douglas, J., Pearson, S., Ross, A., and McGuigan, M. (2017). Chronic Adaptations to Eccentric Training: A Systematic Review. Sports Medicine 47, 917–941
2. Farthing, J.P., and Chilibeck, P.D. (2003). The effects of eccentric and concentric training at different velocities on muscle hypertrophy. European Journal of Applied Physiology 89, 578–586
3. Rees, J.D., Wolman, R.L., and Wilson, A. (2009). Eccentric exercises; why do they work, what are the problems and how can we improve them? British Journal of Sports Medicine 43, 242–246