HPCスタッフコラム

2020.04.06

トレーニングからの回復に年齢は関係あるか?

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加齢に伴ってスポーツや運動のパフォーマンスが低下していくといわれています。確かにMcLesterらは(3)30歳以下の若年群と比較して50歳以上の中年群はエクササイズ後の回復により長い時間を要したことを示しました。また40歳以上のパフォーマンスの低下はタイプ2筋線維の運動単位の低下で説明できるとされています(2)。

しかし、年代別のマラソンのパフォーマンスを比較した研究ではおよそ55歳までは加齢を根拠とするパフォーマンスの低下は見られないとの報告もあります(1)。また、継続的にトレーニングを続けている高齢者の体形は同様にトレーニングする若年群と変わらないとの報告もあり(2)、加齢によって影響を受けない身体要素もあるようです。

今回紹介する研究は、年齢によるトレーニングからの回復への影響を検証しています。若年群(21.8±2.0歳)と中年群(47.0±4.4歳)に分け、等速性エクササイズを行った後の回復反応を筋力のパフォーマンスと生理的なマーカーの2つの観点から比較しています。

 

Comparisons in the recovery response from resistance exercise between young and middle-aged men.
若年と中年男性間のレジスタンストレーニングからの回復反応の比較

Gordon, JA III, Hoffman, JR, Arroyo, E, Varanoske, AN, Coker, NA, Gepner, Y, Wells, AJ, Stout, JR, and Fukuda, DH.

J Strength Cond Res 31(12): 3454–3462, 2017

目的
この研究の目的は、下半身の筋力と回復中の炎症と筋損傷のマーカーに対する高ボリュームの等速性レジスタンスエクササイズプロトコル(HVP:High Volume isokinetic resistance exercise Protocol)の効果を若年と中年男性間で比較することである。

被験者
19名の趣味でトレーニングを行う男性;若年群(21.8±2.0歳)、中年群(47.0±4.4歳)

方法
19名の被験者を若年群と中年群に分類した。HVPは10回を8セット、間に1分間のレストによって構成され、等速性の動力計を用いて60°/sの速度で行った。自発性最大等尺性筋力、等速性の最大トルク(PKT)および平均トルク(AVGT)(240°/sおよび60°/sで計測)をベースライン(BL)、介入の直後(IP)、120分後、24時間後、48時間後に評価した。すべてのパフォーマンスのデータは反復測定分散分析を用いて分析し、一方で炎症および筋損傷のマーカーは2要因(時間×群)の反復測定分散分析をもって分析した。

結果
結果は、PKT、AVGTそして200 msにおけるトルクの発揮率(RTD200)においてグループ間の差がなかったことを示した。ミオグロビン、クレアチンキナーゼ、C反応性タンパク質、およびインターロイキン6にグループ間の差はなかった。YAとMA間の筋パフォーマンスにおけるBLでの差が見られたものの、趣味でトレーニングを行う男性において、高ボリューム等速性エクササイズからのパフォーマンスの回復の数値にグループ間の差は示されなかった。

結論・応用
これらの結果も、高ボリューム等速性エクササイズからの炎症と筋損傷の反応は趣味でトレーニングを行う若年と中年男性間で同様であることを示した。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究の結果は、若年群と中年群との間に筋のパフォーマンス、筋肉痛の自覚的強度、および炎症や筋損傷を表す生理的マーカー大きな違いがなかったことを示しました。介入前(BL)時点では若年群の筋力が中年群の筋力を上回っていたもののその後はグループ間の差はみられませんでした。先行研究と比較してみると、筋活動からの回復については相反する結果が出ています。より筋損傷を引き起こすような筋活動を伴うトレーニングにおいては加齢の影響が出やすく、代謝的な疲労を伴うような筋活動においてはあまり影響がみられないようです(4)。今回紹介した研究では高ボリュームの等速性エクササイズを用いており、より大きな筋損傷を促すようなトレーニングではなく、代謝的な疲労を伴うトレーニングが用いられていました。そのため、群間の差がみられなかったのかもしれません。

多くの研究者ら(1、2、4)は、日常的にトレーニングを行う中高年はトレーニングによる刺激に対する耐性ができるため、回復反応が若年層と比べても遜色がないと述べています。Faulknerら(4)は、トレーニング習慣のない若年群、中年群、高齢群を比較したとき、年齢の増加に応じて体重や体脂肪率が増加し、最大酸素摂取量が低下していることを示しました。さらには、若年群と高齢群を4日間の日活動の後、介入エクササイズを行いそこからの回復反応を比較したとき、高齢群の回復が妨げられたことが示されました(5)。

これらのことから、日常的に運動やトレーニングを行うことで年齢を重ねても回復反応を維持することが示されました。エクササイズやトレーニングからの回復には年齢よりも日頃の運動習慣が関係あるようです。

 

参考文献
1. Leyk, D., Rüther, T., Wunderlich, M., Sievert, A., Eßfeld, D., Witzki, A., Erley, O., Küchmeister, G., Piekarski, C., and Löllgen, H. (2010). Physical Performance in Middle Age and Old Age. Deutsches Aerzteblatt Online
2. Faulkner, J.A., Davis, C.S., Mendias, C.L., and Brooks, S.V. (2008). The aging of elite male athletes: Age-related changes in performance and skeletal muscle structure and function. Clinical Journal of Sport Medicine 18, 501–507
3. McLester, J.R., Bishop, P.A., Smith, J., Wyers, L., Dale, B., Kozusko, J., Richardson, M., Nevett, M.E., and Lomax, R. (2003). A series of studies – A practical protocol for testing muscular endurance recovery. Journal of Strength and Conditioning Research 17, 259–273
4. Fell, J., and Williams, A.D. (2008). The effect of aging on skeletal-muscle recovery from exercise: Possible implications for aging athletes. Journal of Aging and Physical Activity 16, 97–115
5. Hvid, L.G., Suetta, C., Nielsen, J.H., Jensen, M.M., Frandsen, U., Ørtenblad, N., Kjaer, M., and Aagaard, P. (2014). Aging impairs the recovery in mechanical muscle function following 4days of disuse. Experimental Gerontology 52, 1–8