HPCスタッフコラム

2020.04.10

プッシュアップの負荷の定量化

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プッシュアップ(腕立て伏せ)は代表的な上半身の自体重エクササイズです。様々な方法で行うことができ、エクササイズの漸進や減退のバリエーションも豊富にあります。しかしながら、動員される筋や可動域の似ているベンチプレスは外的な負荷を用いることからトレーニング強度を明確にすることができますが、自体重を負荷として用いるプッシュアップは、個人差があったりと強度を明確に把握することが困難です。プッシュアップでどれだけの負荷がかかっているか、疑問に思ったことはありませんか?

今回紹介する研究は、2つのプッシュアップのバリエーションにおいて、トップとボトムのポジションで上肢が支持する重量を定量化することを目的としています。

 

The effect of position on the percentage of body mass supported during traditional and modified push-up variants.
プッシュアップにおけるポジションが典型的なプッシュアップと変更を加えたプッシュアップ時に支持する体重の割合に与える影響

Suprak, DN, Dawes, J, and Stephenson, MD.
J Strength Cond Res 25(2): 497-503, 2011

目的
プッシュアップはポピュラーな上肢の自体重エクササイズである。しかし、その有効性に関しては限られた情報しかない。過去の多くの研究は筋の活性レベルに焦点を当てている一方で、プッシュアップ中の力のかかり方について検証している研究は非常に少ない。この研究の目的は、プッシュアップの可動域の中のポジションが、典型的なプッシュアップと変更を加えた(膝立ち)中の上肢によって支持される体重(BM:Body Mass)の割合に与える影響を検証することである。

被験者
28名の筋力トレーニング経験の多い男性(年齢:33.62±8.59、BM:84.66±11.65 kg、身長:178.98±5.76 ㎝)

方法
28名の筋力トレーニング経験の多い男性被験者に、手をフォースプレート上に置き4通りの静止したポジション(典型的なプッシュアップと変更を加えたプッシュアップのトップとボトムポジション)を取らせた。パフォーマンスの計測値には、BMの割合として表す垂直方向の床反力(GRF:Ground Reaction Force)の平均値及びそれぞれのプッシュアップエクササイズにおけるトップとボトムポジション間の変化率を含んだ。

結果
典型的なプッシュアップと変更を加えたプッシュアップの両方において、被験者はボトムのポジションと比べてより小さい体重をトップのポジションで支持していた。トップのポジションからボトムのポジションへのBMの割合の変化率は変更を加えたプッシュアップにおいてより大きかった。この研究で見られたプッシュアップエクササイズに対する負荷のパターンは、支持面との接地面(膝または足)と手の間であるモーメントアームの変化によるものであろう。

結論・応用
これらの結果は、上肢の主動筋と安定筋の両方の筋力向上やリハビリテーションのプログラムを処方する際に有用であろう。さらに、初心者やけがのリハビリを行うクライアントにおける筋力差に対応するために可動域を変化させる必要があるかもしれない。

オリジナルの文献はこちら

 

まず、興味深いことに、プッシュアップではトップのポジションとボトムのポジションで支持している重量が変化するということでしょう。典型的なプッシュアップでは8.59 ± 3.77%、膝立ちのプッシュアップでは15.76 ± 7.03%の変化が見られました(表1)。つまり、上下する動作中に負荷が変化するということで、プッシュアップはチェーンやバンドを使ったベンチプレスのような(変化率はそこまで大きくありませんが)可変抵抗のトレーニングになるということです。

また各ポジションにおいて支持される体重の割合は表1に示しました。典型的なプッシュアップおいては最大で体重の約75%の負荷がかかることが示されました。脊柱をニュートラルに維持するための体幹筋群の貢献なども考慮しなければなりませんが、この結果から、典型的なプッシュアップを可動域すべて使って正しいテクニックで行うには、バーベルやダンベルを使ったベンチプレスで最低でも体重の75%の重量を持ち上げることができなければならないことが明らかになりました。

この研究の結果によってプッシュアップの負荷を定量化できたことから、上半身のプッシュ系のエクササイズのバリエーションとしてプッシュアップを取り入れる際に、負荷の設定をより正確に行うことができるでしょう。