HPCスタッフコラム

2020.04.17

柔軟性の向上は機能的動作に移行するか?

画像

トレーニングやリハビリの目的の一つに機能的動作の向上や再獲得が挙げられます。そのような機能的動作はいくつもの身体要素、例えば筋力や柔軟性、協調性、持久力などが複雑に組み合わさることで構成されています。機能的動作を向上させるためには、1)運動のコントロールの向上、または2)個別の身体要素の向上による目的の動作への移行があります(3)。

柔軟性の欠如は可動域減少の大きな要因となりますが、受動的な股関節の伸展可動域は歩行などの動的な動作中の股関節の伸展可動域との関係性があまりない(1)との報告もあります。今回紹介する研究では、股関節の柔軟性に加えて、コア(体幹筋群)の持久力の改善が機能的動作中のモビリティに及ぼす影響を検証しています。

 

Improvements in hip flexibility do not transfer to mobility in functional movement patterns.
股関節の柔軟性向上は機能的な動作パターン中のモビリティに移行しない

Moreside, JM and McGill, SM.

J Strength Cond Res 27(10): 2635–2643, 2013

目的
この研究の目的は、受動的な股関節の可動域(ROM:Range of Motion)及びコアの持久力の向上の機能的な動作への移行を分析することである。

被験者
24名の股関節のモビリティに制限のある男性

方法
24名の股関節のモビリティに制限のある男性が無作為に4つの介入グループに振り分けられた:グループ1、ストレッチグループ;グループ2、ストレッチ+股関節と脊柱の動作を分離させるエクササイズ:グループ3、コアの持久力;そしてグループ4、コントロール群。先行研究では、6週間かけて受動的なROMとコアの持久力の大きな増加がみられたが、これらの変化が機能的な身体活動に移行したかどうかははっきりとしていない。4つのダイナミック動作を6週間の介入の前後で分析した:アクティブ・スタンディング・ヒップエクステンション、ランジ、スタンディングツイスト/リーチ動作、およびエリプティカルトレーナーでの運動。バイコンモーションキャプチャーシステムで身体部位のキネマティックスを収集し、股関節と腰椎の角度をVisual 3Dソフトを用いて計算した。反復測定分散分析によって股関節と腰椎の様々な角度に対するグループの影響を求め、対応のあるt検定を特定の前後の数値の分析に用いた。

結果
股関節の受動的なROMの大きな向上にも関わらず、機能的な動作の測定中の股関節のROMが向上したというエビデンスはみられなかった。同様に、腰椎の動きにおける唯一の有意な変化は、アクティブスタンディングヒップエクステンション動作中の腰椎の回旋の減少であった(p<0.05)。

結論・応用
これらの結果は受動的なROMまたはコアの持久力の変化は、機能的な動作パターンへ自動的に移行しないことを示している。これは、新しく獲得した動作の可動域を使用するのであれば、トレーニング及びリハビリのプログラムは新しい運動パターンの「習熟」にさらに焦点を当てることが効果的であることを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

研究のタイトル通り、この研究では柔軟性およびコアの持久力の改善は機能的な動作中のモビリティの改善にはつながりませんでした。柔軟性については、HunterとMarshallの研究では(2)、ストレッチによる柔軟性の向上はジャンプのテクニックに変化を及ぼさないことを報告しています。また歩行動作の膝のローディングに着目した研究では(4)、個別の股関節外転筋群の筋力向上のためのトレーニングでは筋力の向上が認められても歩行動作への移行はみられなかったと報告しています。

これらのことから、個別の身体要素が改善しても、全体的な機能的動作への移行は難しいといえるのではないでしょうか?またPalmerらは(3)、股関節外転筋群が向上しても片脚スクワットやランディング時の膝関節の動作に改善は見られず、同時に運動コントロールのトレーニングを行っても同様の結果であったと報告しています。特定の筋群の改善(筋力や柔軟性の向上)によって痛みなどの症状の改善は起こるようですが(4)、動作自体を変化・改善したい場合は運動のコントロールの改善に多くの時間をかける必要があるでしょう。

参考文献
1. Lee Laura, W., Casey Kerrigan, D., and Della Croce, U. (1997). Dynamic implications of hip flexion contractures. American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation 76, 502–508
2. Hunter, J.P., and Marshall, R.N. (2002). Effects of power and flexibility training on vertical jump technique. Medicine and Science in Sports and Exercise 34, 478–486
3. Palmer, K., Hebron, C., and Williams, J.M. (2015). A randomised trial into the effect of an isolated hip abductor strengthening programme and a functional motor control programme on knee kinematics and hip muscle strength Rehabilitation, physical therapy and occupational health. BMC Musculoskeletal Disorders 16
4. Sled, E.A., Khoja, L., Deluzio, K.J., Olney, S.J., and Culham, E.G. (2010). Effect of a Home Program of Hip Abductor Exercises on Knee Joint Loading, Strength, Function, and Pain in People With Knee Osteoarthritis: A Clinical Trial. Physical Therapy 90, 895–904