HPCスタッフコラム

2020.04.28

自体重でのハムストリングのトレーニング

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場所を選ばない自体重エクササイズのなかで、下肢のプッシュエクササイズ(押す動作が主となるもの)としてスクワットやランジなど様々なバリエーションを挙げることができます。これらのエクササイズは片側にしたり、少しの負荷(軽い重りやレジスタンスバンドなど)を加えたりするだけで多くの人にとっては筋力や筋量の適応を刺激するための良いトレーニングとなります。しかし、下肢のプルエクササイズ(引く動作や膝関節屈曲が中心のもの)には十分な負荷をかけるにはバーベルやDBなどの大きな重量をかけるものが多かったり、マシーンが必要であったりするものが多くあります。

今回紹介する研究は、下肢のプルエクササイズ、ハムストリングを主に動員するエクササイズ、を比較し、自宅や器具のないような環境でも十分に筋を動員し、適応を促す負荷をかけられるかどうかを検証しています。

 

Effect of an eccentrically biased hamstring strengthening home program on knee flexor strength and the length-tension relationship.
エキセントリック局面を強調した自宅で行うハムストリングの強化プログラムの膝関節屈曲の筋力及び長さ‐張力関係に対する効果

Orishimo, KF and McHugh, MP.

J Strength Cond Res 29(3): 772–778, 2015

目的
この研究の目的は、4つのハムストリングのエキセントリック局面の強化エクササイズにおけるハムストリングと大殿筋の相対的な活性度を記録すること及び、これらのエクササイズからなる短期的な強化プログラムの膝関節屈曲筋群の筋力と長さ‐張力関係に対する効果を評価することである。

被験者
12名(男性9名、女性3名)の健康でけがのない成人(年齢:32±10歳、身長1.7±0.2 ㎝、体重:75.4±8.6 kg)

方法
12名の健康な被験者がこの研究に参加した。大腿二頭筋、半腱様筋、及び大殿筋の筋電活動(EMG:Electromyograph)を、被験者がa)弾性負荷を用いた立位のヒップエクステンション、b)片脚スタンスでの体幹部の屈曲(ダイバー)、C)立位でのスプリット(グライダー)(図1)、及びd)仰臥位スライディングブリッジ(スライダー)(図2)を行う際に記録した。ベースライン時の膝屈曲アイソメトリック筋力を座位で股関節が水平から50°の姿勢で膝屈曲が90、70、50、及び30°の位置で測定した。4週間のトレーニングプログラム完了後、筋力テストを繰り返した。反復測定分散分析を用いて筋間のEMG活動の比較と角度特異的な筋力の向上の評価を行った。


図1 研究で用いられたエクササイズ;a)立位のヒップエクステンション、b)ダイバー、C)グライダー(1より転載)


図2 研究で用いられたエクササイズ;スライダー(本文より転載)

結果
立位ヒップエクステンション、グライダー及びスライダーのエクササイズにおいてハムストリングの筋活動が大殿筋の筋活動を上回った(p<0.001)」が、ダイバーでは起こらなかった(p<0.087)。ハムストリングの活性はスライダーと立位ヒップエクステンションで最も大きく、グライダーとダイバーにおいて最小であった。膝屈曲筋力は9%向上し(p=0.005)、この増加は角度に特異的ではなかった(p=.874)。

結論・応用
短期の自宅でのトレーニングプログラムは効果的にハムストリングをトレーニングでき、筋長が短い時と長い時において同様の筋力の向上につながった。これらのデータはハムストリングの筋力は、重量はその他の器具を使用せずともエキセントリック局面が強調された片側エクササイズを用いることで向上させることができることを示した。

オリジナルの文献はこちら

 

今回の研究では4つのエクササイズが使用され、それぞれに異なる特徴のあるエクササイズでした。全体的な結果は上記のとおりです。さらに、本文から細かい結果を引用すると、エクササイズの筋活動を比較したときに全体ではスライダーが最も筋活動が大きく、次いで立位のヒップエクステンション、グライダー、ダイバーの順でした。しかし、コンセントリック局面のみの筋活動を比較するとスライダーがほかの3つのエクササイズよりも小さくなっていました。このことは、同じハムストリングや大殿筋をターゲットとするエクササイズであっても、エクササイズによって特徴があるということを示しています。

またこれら4種目すべてをを4週間トレーニングとして行ったところ測定された角度すべてにおいて筋力が向上していました。筋活動の違いはあるものの様々な特徴を持ったエクササイズを組み合わせることによってバランスよく膝関節屈曲筋力を向上させることができるようです。これは同時に、ハムストリングの筋力向上を目的としてプログラムに組み入れる場合は、各エクササイズの特徴を把握し、複数の種目を組み合わせることの重要性も示唆しています。

最後に、この研究では自体重や簡単な負荷を用いても十分ハムストリングの筋力を向上させることが示されました。スクワットなどの下肢のプッシュエクササイズだけでなく膝関節や股関節の筋力バランスを保つためにもこのような下肢のプルエクササイズ(膝屈曲エクササイズ)を取り入れましょう。

 

参考文献
1. Askling, C.M., Tengvar, M., Tarassova, O., and Thorstensson, A. (2014). Acute hamstring injuries in Swedish elite sprinters and jumpers: A prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. British Journal of Sports Medicine 48, 532–539