HPCスタッフコラム

2020.05.15

ディトレーニング

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ディトレーニングとは?
ディトレーニングとはトレーニングの減少や休止という意味だけでなく、それによってそれまでのトレーニングによって獲得した解剖学的、生理的及びパフォーマンスの適応の部分的または全体的な損失と定義されています(1)。身体の状態(筋力や持久力、スピードなど)を維持・向上するための十分なトレーニング刺激を身体にあたえていない状況です。身近な例として、大会や長いシーズン後の長期オフの期間、さらにはけがや病気によって身体を動かせない期間が長期にわたったときに起こる身体の変化があげられるでしょう。
今回のコラムではエビデンスをもとにディトレーニングについて解説していきたいと思います。

ディトレーニングの影響
ディトレーニングによって影響を受ける身体要素として、筋力や筋のサイズといった筋の機能から始まり、心肺機能や局所的な持久力などがあり、またスポーツのパフォーマンスにも大きな影響を与えます。

筋機能
エビデンスによると、筋機能の中で最も顕著にディトレーニングの影響を受けるのは筋量のようです。筋力を必要とするアスリートに関しては速筋線維の萎縮としてディトレーニングの影響が表れます(2、7)。また筋の横断面積も減少し、8週間のレジスタンストレーニングによって得られた筋量は4週間のディトレーニングでトレーニング開始前の量に戻り、さらなる4週間のディトレーニングでベースライン以下になるとの報告もあります。筋量の減少は徐脂肪体重の減少につながり、コリジョンスポーツやコンタクトスポーツなど相手との接触の多いスポーツのパフォーマンスに大きな影響を与えるでしょう。しかし、筋力についての影響は研究によってさまざまなであり、4週間のディトレーニングでは3~14%の筋力の減少が起こると報告されています(3、5、7)。おそらく筋量の低下が筋力の低下の大きな原因となっているでしょう。

持久力
ディトレーニングによって最も大きな影響を受けるのが心肺機能の低下による持久系パフォーマンスの低下でしょう。最大酸素摂取量(VO2Max)はトレーニングの休止により低下し、その低下率は最大酸素摂取量の値がより大きい人ほど大きくなるようです(4)。筋のグリコーゲンの貯蔵もトレーニング休止から早いと1週間目から減少し(4)、これによって解糖系の持久力にも影響が出るでしょう。さらに、筋中の毛細血管や酸化酵素の活動も減少する(3、4)ことから、筋でのATP生成が減少し、筋の持久系パフォーマンスや全身持久力低下につながります。

スポーツパフォーマンス
垂直跳びの跳躍パフォーマンスに対しては4~8週間のトレーニングの休止では影響は限定的なようです(5、6、8、11)。ハンドボール選手の投球速度には有意な低下(約3%)がみられたとの報告(6)もあります。水泳選手のトレーニング量を4週間減少させた研究では筋力値に変化はなかったものの、水泳のパフォーマンスが低下したとの報告もあります(10)。サッカー選手のシーズン後のディトレーニングよってYo-yoテストやスピード持久力のパフォーマンス(9)、VO2Max、スプリントスピードなど(11)が低下したとの報告もあります。

年齢・性別
ディトレーニングにおける年齢の影響ですが、高齢者のほうがディトレーニング中の筋力の低下は大きくなり(12)、子供(7~12歳)でもトレーニングによって向上した筋力は8週間ほどでもとに戻る(13)とのエビデンスがあります。性別については明らかな差を示すエビデンスはありませんでした。

ディトレーニングからのトレーニング再開
ディトレーニングからのトレーニング再開には注意が必要です。低下した身体機能のままトレーニングを再開することでけがのリスクが増加することが考えられます。3か月のディトレーニング後に段階を経ずに超高強度のトレーニングを行ったことで、横紋筋融解症を発症したケースが報告されています(14)。またトップアスリートにおいてもディトレーニングの弊害が報告されており、NFL(National Football League:全米フットボールリーグ)では2011年に選手によるロックアウトが起こっており、その前年までのアキレス腱断裂の発生件数が年間を通して平均5件ほどであったものが、ロックアウト明けのプレシーズンのキャンプだけで12件発生しました(15)。
また低下した身体機能の再獲得にはある程度の時間を有します。シーズン後の2週間のディトレーニングによって低下した持久系のパフォーマンスはディトレーニング前の数値に戻るまでに2~3週間の高強度のトレーニングを有したとする報告があります(9)。
トレーニングやスポーツを再開する際には、身体の機能やパフォーマンスが低下していることを念頭に置き、まずは強度やボリュームを下げることで安全に再開していきましょう。また以前の水準に戻るにはある程度の時間を有することを考慮しながら徐々にトレーニング休止前の状態やトレーニング強度に戻すようにしましょう。

NSCAではアスリートに向けた安全なトレーニング再開に関するガイドラインを作成し、発表しています。


図1 アスリートのための安全なトレーニング再開に関するNSCAガイドラインのインフォグラフィック

またCSCCa(Collegiate Strength & Conditioning Coaches association:全米大学ストレングス&コンディショニング協会)と合同で安全にトレーニングを再開するためのガイドラインも策定しています。


図2 不活動後の移行期にトレーニングに安全に復帰するためのCSCCaとNSCAの合同総合ガイドラインのインフォグラフィック

ディトレーニング後に安全にスポーツやトレーニングを楽しめるようにぜひ参考にしてください。

 

参考文献
1. Mujika, I., and Padilla, S. (2000). Detraining: Loss of training induced physiological and performance adaptation. Part I. Short term insufficient training stimulus. Sports Medicine 30, 79–87
2. Mujika, I., and Padilla, S. (2001). Muscular characteristics of detraining in humans. Medicine and Science in Sports and Exercise 33, 1297–1303
3. Hortobágyi, T., Houmard, J.A., Stevenson, J.R., Fraser, D.D., Johns, R.A., and Israel, R.G. (1993). The effects of detraining on power athletes. Medicine and Science in Sports and Exercise 25, 929–935
4. Mujika, I., and Padilla, S. (2000). Detraining: Loss of training induced physiological and performance adaptation. Part I. Short term insufficient training stimulus. Sports Medicine 30, 79–87
5. Izquierdo, M., Ibañez, J., González-Badillo, J.J., Ratamess, N.A., Kraemer, W.J., Häkkinen, K., Bonnabau, H., Granados, C., French, D.N., and Gorostiaga, E.M. (2007). Detraining and tapering effects on hormonal responses and strength performance. Journal of Strength and Conditioning Research 21, 768–775
6. Cardoso Marques, M.A., and González-Badillo, J.J. (2006). In-season resistance training and detraining in professional team handball players. Journal of Strength and Conditioning Research 20, 563–571
7. Terzis, G., Stratakos, G., Manta, P., and Georgiadis, G. (2008). Throwing performance after resistance training and detraining. Journal of Strength and Conditioning Research 22, 1198–1204
8. Nunes, A.C.C.A., Cattuzzo, M.T., Faigenbaum, A.D., and Mortatti, A.L. (2019). Effects of Integrative Neuromuscular Training and Detraining on Countermovement Jump Performance in Youth Volleyball Players. Journal of Strength and Conditioning Research 1
9. Joo, C.H. (2018). The effects of short term detraining and retraining on physical fitness in elite soccer players. PLoS ONE 13
10. Neufer, D.D., Costill, D.L., Fielding, R.A., Flynn, M.G., and Kirwan, J.P. (1987). Effect of reduced training on muscular strength and endurance in competitive swimmers. Medicine and Science in Sports and Exercise 19, 486–490
11. Koundourakis, N.E., Androulakis, N.E., Malliaraki, N., Tsatsanis, C., Venihaki, M., and Margioris, A.N. (2014). Discrepancy between exercise performance, body composition, and sex steroid response after a six-week detraining period in professional soccer players. PLoS ONE 9
12. Lemmer, J.T., Hurlbut, D.E., Martel, G.F., Tracy, B.L., Ivey, F.M., Metter, E.J., Fozard, J.L., Fleg, J.L., and Hurley, B.F. (2000). Age and gender responses to strength training and detraining. Medicine and Science in Sports and Exercise 32, 1505–151
13. Faigenbaum, A.D., Westcott, W.L., Micheli, L.J., Outerbridge, A.R., Long, C.J., LaRosa-Loud, R., and Zaichkowsky, L.D. (1996). The Effects of Strength Training and Detraining on Children. Journal of Strength and Conditioning Research 10, 109–114
14. Pearcey, G.E.P., Bradbury-Squires, D.J., Power, K.E., Behm, D.G., and Button, D.C. (2013). Exertional rhabdomyolysis in an acutely detrained athlete/exercise physiology professor. Clinical Journal of Sport Medicine 23, 496–498
15. Myer, G.D., Faigenbaum, A.D., Cherny, C.E., Heidt, R.S., and Hewett, T.E. (2011). Did the NFL lockout expose the achilles heel of competitive sports. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy 41, 702–705