HPCスタッフコラム

2020.06.12

脚をゆすることで跳躍パフォーマンスが向上する?

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身体が高いパフォーマンスを発揮しようとするとき、筋間のコーディネーションが重要となります。筋間のコーディネーションとは、動作が起こるうえでの主動筋と拮抗筋の適切な出力及びタイミングであり、スポーツ中に最大パワーを発揮は筋間のコーディネーションに影響されるとされています(1)。筋間のコーディネーションの重要な要素の一つに筋の弛緩がありますが、筋の活性についての研究と比較して筋の弛緩に対する研究は多くありません。

今回紹介する研究は、自発的な筋の弛緩のテクニックが垂直跳びのパフォーマンスや疲労に対する効果を検証しています。

 

Voluntary muscle relaxation can mitigate fatigue and improve countermovement jump performance.
自発的な筋の弛緩は疲労を軽減し垂直飛びのパフォーマンスを向上させる

Pinto, BL and McGill, SM.

J Strength Cond Res 34(6): 1525–1529, 2020

目的

筋が収縮すると、力と剛性が生まれる。したがって、動作を調整しコントロールするため、スピードや筋力といった運動に関する能力を向上させるために、筋の活性と弛緩が戦略的に順序良く起きなければならない。しかし、研究は筋の弛緩よりも活性について調査されることが多い。ランナーやスイマー、そしてボクサーは試合の直前に筋が自由に振られるように頻繁に自身の四肢を揺することがある。この研究の目的は、筋を自発的に弛緩させるために下半身を揺することで反動を用いた垂直跳び(Countermovement Jump:CMJ)のパフォーマンスに影響があるかどうかを検証することである。

被験者

健康な11名の男性(年齢:24±2.8歳、体重83.5±13.3 kg、身長178.6±9.9 cm)

方法1

被験者は最大努力でCMJを10回行い、各ジャンプの間に30秒間の休息を挟んだ。休息の間、被験者は弛緩を促すテクニックまたはコントロールの条件(じっと立っている)を行った。統計的な有意性はp<0.05とした。

結果1

被験者は、弛緩のテクニックを用いたときその日の最初の跳躍よりも有意に跳躍高を向上させた。

方法2

向上のメカニズムをさらに検証するために、被験者は反応群と非反応群に分けられた。反応群は非反応群と比較して、コントロールの条件下で有意に跳躍高とコンセントリック局面の力積が有意に低下し(最初の跳躍と比較して)、これは疲労を示唆している。

結果2

弛緩のテクニックを行ったとき、反応群は跳躍高が向上し、そして抜重局面の力積と同局面の力を有意に向上させることで疲労を軽減させた。

結論・応用

弛緩のテクニックによって筋の活性が必要な推進局面よりも筋の弛緩が必要な抜重局面を向上させることでCMJのパフォーマンスが向上し、特に、連続した試技によって疲労する者にとって効果があった。このテクニックはトレーニングや試合で有効的に用いることができるだろう。

オリジナルの文献はこちら

 

まず、この研究では筋の弛緩を促すことで連続した跳躍のパフォーマンスが向上することがわかりました。残念ながら向上の度合いは報告されていませんでしたが、コントロール条件と比較して筋の弛緩のテクニックを用いることで跳躍高をはじめコンセントリック局面の力積などの項目も向上しました。

また、続く実験ではコントロール条件での跳躍中に疲労を示した被験者らに筋の弛緩テクニックを用いたときに疲労の軽減が認められました。この時抜重局面の力積の向上も認められました。抜重局面、つまりCMJの下降動作で股関節と膝関節を屈曲させ足関節の背屈が起こる場面の力積が大きくなることはその後の減速局面でより大きな力が必要となり、結果として伸長短縮サイクル(SSC:Stretch-Shortening Cycle)の機能の向上につながります(2)。

ランナーや水泳選手などがスタート前に自身の四肢をゆすっている光景を見たことがあるでしょう。筋を弛緩させることは精神面で緊張をほぐす効果(3)だけでなく、身体面での向上も期待できるようです。

 

参考文献
1. Cormie, P., McGuigan, M.R., and Newton, R.U. (2011). Developing maximal neuromuscular power: Part 1 – Biological basis of maximal power production. Sports Medicine 41, 17–38
2. McMahon, J.J., Suchomel, T.J., Lake, J.P., and Comfort, P. (2018). Understanding the key phases of the countermovement jump force-time curve. Strength and Conditioning Journal 40, 96–106
3. Conrad, A., and Roth, W.T. (2007). Muscle relaxation therapy for anxiety disorders: It works but how? Journal of Anxiety Disorders 21, 243–264