HPCスタッフコラム

2020.08.22

エクササイズによるハムストリングの筋活動の違い

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一般的にノルディックカールやノルディックハムストリングカールと呼ばれているノルディックハムストリングエクササイズは大腿部後面の筋群に対するエクササイズの一つです。近年は筋力向上だけでなくハムストリングへの傷害を予防するためのエクササイズとしても注目されており、Al Attarらによるメタ分析ではノルディックハムストリングエクササイズを含むプログラムによってハムストリングへの傷害の発生率が最大で51%減少したと報告しています(1、2)。

またノルディックハムストリングエクササイズの効果を検証したものは、長期的(慢性的)な変化を調査したものが多くありますが、エクササイズに対する急性的な反応(筋活動や形態の変化)を検証することで、ノルディックハムストリングエクササイズがどの部位に対して作用しているかが明らかになるでしょう。今回紹介する研究は、MRIを用いてノルディックハムストリングエクササイズによる筋活動や急性的な筋の形態の変化を調査しています。

 

The use of MRI to evaluate posterior thigh muscle activity and damage during nordic hamstring exercise.
ノルディックハムストリングエクササイズ中の大腿部後面の筋の活動と損傷を評価するためのMRIの利用

Mendiguchia, J, Arcos, AL, Garrues, MA, Myer, GD, Yanci, J, and Idoate, F.

J Strength Cond Res 27(12): 3426–3435, 2013

目的
この研究の目的は、ノルディックハムストリングエクササイズが大腿二頭筋長頭(BFlh:Biceps Femoris long head)、大腿二頭筋短頭(BFsh:Biceps Femoris short head)、半腱様筋(SMT:Semitendinosus)および半膜様筋(SMM:Semimembranosus)に与える効果を調査することである。ノルディックハムストリング強化エクササイズは怪我の予防のために広く用いられているが、大腿部の異なる筋におけるこのエクササイズの部位特異的な筋活性についてはよく知られていない。

被験者
8名のナショナルレベルのサッカーのレフェリー(年齢:29.50±4.72歳、体重:72.80±6.99、kg、身長:1.75±0.03 m、体脂肪率:12.07±3.76 %)

方法
8名のナショナルレベルのレフェリーがノルディックハムストリングエクササイズのプロトコル(8回を5セット)にあてがった。エクササイズ介入の前、エクササイズ後3分以内、そして72時間後に被験者の大腿部の磁気共鳴画像(MRI)を撮影した。右大腿長(Lf:Legth of femur)の15分の1の間隔をあけてレベル1Lfから15Lfまで15個の大腿部の体軸スキャンを撮影した。MRIデータは信号強度の変化について分析された。

結果
72時間後に、横(スピン-スピン)緩和時間の信号強度に有意な変化があり、また横断面積は大腿部の遠位のBFshの頭蓋部分で、より具体的に非利き脚で、増加し、一方でBFlh、SMMまたはSMTにおける横(スピン-スピン)緩和時間の信号強度に有意な変化は確認されなかった。
*横(スピン-スピン)緩和時間:非侵襲的に筋の活動を評価する指標

結果・応用
この研究は、ノルディックハムストリングエクササイズは、ハムストリング間(利き脚vs非利き脚)またはハムストリング内(同脚)のどちらにおいても、共通の反応(トレーニング刺激)にはつながらず、またこのエクササイズはBFshの近位部に負荷をかけるのにより適していた。

オリジナルの文献はこちら

 

エクササイズ後の急T2信号の増加は、血流の増加を示しており、その増加がエクササイズの2日後に起こっていることは激しい筋の損傷を表しているとされています(3)。この研究では半腱様筋、大腿二頭筋長頭および短頭において遠位部でT2信号の増加が見られました。大腿二頭筋の短頭(BFsh)ではさらに、近位の付着部周辺の横断面積の増加が見られたことから、ノルディックハムストリングエクササイズがBFshの近位部に大きな負荷を与えていることがわかります。

多くの研究では、ノルディックハムストリングエクササイズによる大腿二頭筋の長頭の変化を見ることが多く、長期的な介入研究では大腿二頭筋長頭の筋肥大(4、5、6)や筋束長の増加(4、5、6)、羽状角度の減少(4)が報告されています。しかし、Bourneらの研究(6)では、膝屈曲が主となるノルディックハムストリングエクササイズと股関節伸展が主となるヒップエクステンションの大腿二頭筋長頭に与える効果を比較しており、ヒップエクステンションのほうが大腿二頭筋長頭により大きな変化をもたらすことを報告しています。

これらのことから、ノルディックハムストリングエクササイズのような膝関節の屈曲が主となるエクササイズでは大腿二頭筋短頭の貢献が大きくなり、股関節伸展が主となるエクササイズでは大腿二頭筋長頭や半膜様筋の貢献が大きくなることが示唆されます。そのため、ハムストリングに対するエクササイズは、動作によってハムストリングを構成する筋群に対して異なって作用することから、目的に応じてエクササイズを変更することが必要となるでしょう。

 

参考文献
1. Al Attar, W.S.A., Soomro, N., Sinclair, P.J., Pappas, E., and Sanders, R.H. (2017). Effect of Injury Prevention Programs that Include the Nordic Hamstring Exercise on Hamstring Injury Rates in Soccer Players: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine 47, 907–916
2. Van Dyk, N., Behan, F.P., and Whiteley, R. (2019). Including the Nordic hamstring exercise in injury prevention programmes halves the rate of hamstring injuries: A systematic review and meta-analysis of 8459 athletes. British Journal of Sports Medicine 53, 1362–1370
3. Kubota, J., Ono, T., Araki, M., Torii, S., Okuwaki, T., and Fukubayashi, T. (2007). Non-uniform changes in magnetic resonance measurements of the semitendinosus muscle following intensive eccentric exercise. European Journal of Applied Physiology 101, 713–720
4. Alonso-Fernandez, D., Docampo-Blanco, P., and Martinez-Fernandez, J. (2018). Changes in muscle architecture of biceps femoris induced by eccentric strength training with nordic hamstring exercise. Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports 28, 88–94
5. Presland, J.D., Timmins, R.G., Bourne, M.N., Williams, M.D., and Opar, D.A. (2018). The effect of Nordic hamstring exercise training volume on biceps femoris long head architectural adaptation. Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports 28, 1775–1783
6. Bourne, M.N., Duhig, S.J., Timmins, R.G., Williams, M.D., Opar, D.A., Al Najjar, A., Kerr, G.K., and Shield, A.J. (2017). Impact of the Nordic hamstring and hip extension exercises on hamstring architecture and morphology: Implications for injury prevention. British Journal of Sports Medicine 51, 469–477