HPCスタッフコラム

2020.09.24

コンカレントトレーニングの強度の問題

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コンカレントトレーニングとは一つのトレーニングプログラムに、筋力やパワーを向上させるためのレジスタンストレーニングと持久力の向上を目的とした有酸素トレーニングを組み合わせるトレーニング方法です(1)。トレーニングに対する適応(筋力やパワー、持久力の向上)はトレーニングによる刺激に特異的なため、当然のことながらレジスタンストレーニングによって有酸素持久力の大きな向上は望めず、その逆もまた然りなのです。そのため、筋力やパワーの向上にはレジスタンストレーニングが、有酸素持久力の向上には有酸素トレーニングが必要ですが、高いレベルでの持久力のトレーニングはレジスタンストレーニングによる筋量や筋力の向上を抑制するようです(2)。

今回紹介する研究は、同じレジスタンストレーニングを行った後に、異なる強度の有酸素持久力トレーニングを行い、これらのトレーニングの組み合わせが筋力やスピード、有酸素性持久力に及ぼす影響を比較しています。

 

Concurrent training and detraining: the influence of different aerobic intensities.
コンカレントトレーニングとディトレーニング:異なる有酸素運動の強度の影響

Sousa, AC, Neiva, HP, Gil, MH, Izquierdo, M, Rodríguez-Rosell, D, Marques, MC, and Marinho, DA.

J Strength Cond Res 34(9): 2565–2574, 2020

目的
この研究の目的は異なる有酸素運動の強度と同一強度のレジスタンストレーニングと組み合わせた際の筋力と有酸素パフォーマンスに与える影響を実証することである。

被験者
39名の活動的な男性(年齢範囲:18~25歳)。被験者は6か月から2年間のレジスタンストレーニングの経験があった。

方法
39名の男性が、低強度グループ(LIG:Low Intensity Group)、中強度グループ(MIG:Moderate Intensity Group)、高強度グループ(HIG:High Intensity Group)、またはコントロールグループに無作為に振り分けられた。トレーニングプログラムは、フルスクワット、ジャンプ、スプリント、そして16~20分の最大有酸素スピードの80%(LIG)、90%(MIG)または100%(HIG)でのランニングで構成された。トレーニング期間は8週間続き、その後4週間のディトレーニングを行った。測定は、20mスプリント(0~10 m:T10、0~20 m:T20)、シャトルラン、反動を用いた垂直飛び(CMJ:Counter Movement Jump)、そしてフルスクワットの筋力(推定1RM)が含まれた。

結果
トレーニング前からトレーニング後へ有意な向上がT10(LIG:4%、MIG:5%、HIG:2%)、T20(LIG:3%、MIG:4%、HIG:2%)、CMJ(LIG:9%、MIG:10%、HIG:7%)、推定1RM(LIG:13%、MIG:7%、HIG:8%)、および最大酸素摂取量(VO2  Max、LIG:10%、MIG:11%、HIG:10%)で見られた。実験グループ間の変化を比較したところ、推定1RMの向上はHIG(5%)やMIG(6%)よりもLIGが有意に大きかった。さらに、T10、T20およびCMJ において、HIGと比較してLIGとMIGの向上が高い傾向あり、「可能性のある」または「可能性が高い」正の影響があった。ディトレーニングはパフォーマンスの低下につながったが、LIGにおいてはVO2 Maxの低下は最小限であった(1%)。

結論・応用
コンカレントトレーニングは、有酸素トレーニングの強度に関係なく、筋力と有酸素能力の向上に有効的のようである。しかし、低強度を選択することは、筋力の向上につなげることができ、そして心肺機能の向上をより長く維持しなければならない場合に推奨される。

オリジナルの文献はこちら

 

有酸素持久力トレーニングの強度に関係なく、トレーニング前後でスピードやジャンプ力、有酸素性持久力、そして筋力の向上が示されました。しかし、グループ間の比較では筋力においては、低強度の有酸素トレーニングのほうが中強度や高強度のトレーニングと比較して筋力の向上が大きくなりました。その他にも、その差が有意とはならなかったものの、スプリントやジャンプのパフォーマンスは低強度または中強度のトレーニングのほうが高強度のトレーニングよりも高くなる傾向が示されました。

これについては、他の研究でも同様のことが報告されています。最大酸素摂取量の70%程度の強度での有酸素持久力トレーニングをレジスタンストレーニング後に行ったところ、パワーや筋力の向上やそしてmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の活性はレジスタンストレーニングと同様でした(3、4、5、6)。このmTORとはタンパク質キナーゼの一種で筋肥大と関係性があるといわれています(2)。このmTORはレジスタンストレーニングによって活性化しますが、その働きはAMPK(AMP活性化キナーゼ)によって阻害されます。AMPKは高強度の持久系のトレーニングによって活性化されます。これはCoffeyらの研究(7)によっても報告されており、高強度の繰り返しのスプリントをレジスタンスエクササイズ後に行ったところ、レジスタンスエクササイズによる反応が阻害されました。

Wilsonら(1)のメタ分析によれば、レジスタンストレーニング群とコンカレントトレーニングで筋量や筋力、パワーの向上に有意な差は見られないとのことでしたが、ここには有酸素トレーニングについての記載がありませんでした。

今回紹介した研究とこれまでの先行研究から、筋量や筋力、パワーの向上と有酸素性持久力の向上を目的としたコンカレントトレーニングを行う際は、有酸素トレーニングの強度をVO2 maxの70%程度に抑えることで、効率よく両方のトレーニング効果が得られるということが言えるでしょう。有酸素トレーニングの強度が高くなりすぎた場合はレジスタンストレーニングの効果が出にくくなることもあるので注意しましょう。

 

参考文献
1. Wilson, J.M., Marin, P.J., Rhea, M.R., Wilson, S.M.C., Loenneke, J.P., and Anderson, J.C. (2012). Concurrent training: A meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises. Journal of Strength and Conditioning Research 26, 2293–2307
2. Baar, K. (2014). Using Molecular Biology to Maximize Concurrent Training. Sports Medicine 44, 117–125
3. Lundberg, T.R., Fernandez-Gonzalo, R., Gustafsson, T., and Tesch, P.A. (2012). Aerobic exercise alters skeletal muscle molecular responses to resistance exercise. Medicine and Science in Sports and Exercise 44, 1680–1688
4. Coffey, V.G., Pilegaard, H., Garnham, A.P., O’Brien, B.J., and Hawley, J.A. (2009). Consecutive bouts of diverse contractile activity alter acute responses in human skeletal muscle. Journal of Applied Physiology 106, 1187–1197
5. Apró, W., Wang, L., Pontén, M., Blomstrand, E., and Sahlin, K. (2013). Resistance exercise induced mTORC1 signaling is not impaired by subsequent endurance exercise in human skeletal muscle. American Journal of Physiology – Endocrinology and Metabolism 305
6. Libardi, C.A., De Souza, G.V., Cavaglieri, C.R., Madruga, V.A., and Chacon-Mikahil, M.P.T. (2012). Effect of resistance, endurance, and concurrent training on TNF-α, IL-6, and CRP. Medicine and Science in Sports and Exercise 44, 50–56
7. Coffey, V.G., Jemiolo, B., Edge, J., Garnham, A.P., Trappe, S.W., and Hawley, J.A. (2009). Effect of consecutive repeated sprint and resistance exercise bouts on acute adaptive responses in human skeletal muscle. American Journal of Physiology – Regulatory Integrative and Comparative Physiology 297