HPCスタッフコラム

2020.12.23

より高ボリュームのトレーニングは筋肥大を促進するか?

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ジャーマンボリュームトレーニング(German Volume Training)とは1970年代にドイツを起源とした筋肥大のためのトレーニング方法です。このトレーニング方法では、一つのコンパウンドエクササイズ(スクワットやベンチプレスなどの多くの筋や関節を動員するエクササイズ)につき10回を10セット行うものです。比較的短いセット間のレスト(60~90秒)で1RMの60%または20RMの負荷からスタートします(1)。

このトレーニング方法の背景として、大きな代謝性のストレスは筋肥大を促進させるとされていて、高ボリュームのプログラムは大きな代謝性ストレスをもたらす他、成長ホルモンなどの分泌を促し(2)、タンパク合成を増加させる(6)といった報告があげられます。しかし、高ボリュームのトレーニングプログラムは急性的にパワー発揮を低下させる(3)などの負の効果もあります。さらには、慢性的な高ボリュームのトレーニングはオーバートレーニングのリスクを増加させることから(2)、高ボリュームが推奨させる筋肥大のトレーニングプログラムにおいても適切なボリュームを明確にする必要があります。

今回紹介する研究では、筋肥大と筋力向上を目的としたトレーニングプログラムにおいてGVT(10セット)と5セットのプログラムの効果を比較しています。

 

Effects of a modified German volume training program on muscular hypertrophy and strength.
変更を加えたジャーマンボリュームトレーニングプログラムが筋肥大と筋力に与える影響

Amirthalingam, T, Mavros, Y, Wilson, GC, Clarke, JL, Mitchell, L, and Hackett, DA.

J Strength Cond Res 31(11): 3109–3119, 2017

目的
ジャーマンボリュームトレーニング(GVT:German Volume Training)、または10セット法、はウェイトリフターによって筋量を増加させるために何十年にもわたって用いられてきた。今日まで、GVT実施後のトレーニングの適応について直接検証した研究はない。この研究の目的は変更を加えたGVTほうが筋肥大と筋力に与える影響を調べることである。

被験者
19名の健康な男性(19~24歳)

方法
19名の健康な男性を、6週間にわたって週3回のスプリットルーティンに含まれるコンパウンドレジスタンスエクササイズを10セット10回または5セット10回行うグループに無作為に振り分けた。全身と部位ごとの筋量、筋厚、および筋力をトレーニングプログラム期間の前後で測定した。

結果
全てのグループにおいて、筋量の数値に有意な向上があったが、体幹(p=0.043、ES(Effect size:効果量)=-0.21)および腕(p=0.083、ES=-0.25)の筋量は5-SETグループのほうが大きかった。グループ間の脚の筋量または筋厚に有意な向上は全てのグループにおいてみられなかった。すべてのグループにおいて筋力の有意な向上が見られ、ベンチプレス(p=0.014、ES=-0.43)およびラットプルダウン(p=0.003、ES=-0.54)においては5-SETグループにおいて増加がより大きかった。

結論・応用
変更を加えたGVTプログラムは、筋肥大と筋力を向上させるためにはエクササイズにつき5セット行う場合と効果の違いはないようである。筋肥大に対するトレーニング効果を最大限にするためには、エクササイズにつき4~6セット行うことが推奨され、このセットの範囲を超えると増加が停滞するようであり、オーバートレーニングによって減退することもあるかもしれない。

オリジナルの文献はこちら

 

筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングのボリュームはトレーニング経験によって大きく関係性が変化するようです。上半身の筋肥大についてまとめた簡易レビュー(4)によると、非トレーニング者については3セット未満でも効果があるようです。しかし、トレーニング経験の多い人に対してはより多くのボリュームが必要である可能性もあります(5)。この研究では5セットと10セットのトレーニングプログラム間に有意な差がなかったことから、著者らは4-6セットが適切なセット数であると推奨しています。しかし、筋肥大の効果が停滞するセット数はまだまだ明らかになっていない(5)のが現状のようです。

Figueiredoら(5)は、今回紹介した研究の結果を受けて、複数のエクササイズによって高ボリュームを行う必要性にも言及しています。つまり、胸部の筋肥大に対してはベンチプレスだけでなく、プッシュアップやインクラインプレスなどのエクササイズを合わせて行うことでトレーニングボリュームを増加させるほうが、効果が増加する可能性があると言ことです。これについてはこれkらさらなる研究が必要でしょう。

 

参考文献
1. Baker, D. (2009). German Volume Training: An Alternative Method of High Volume-Load Training For Stimulating Muscle Growth. Performance Training Journal 8, 10–13
2. Schoenfeld, B.J. (2010). The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training. Journal of Strength and Conditioning Research 24, 2857–2872
3. Baker, D., and Newton, R.U. (2009). The Deleterious Acute Effects Of The High Volume-Load German Volume Training Workout Upon Upper Body Power Output. J Aust Strength Cond 17, 11–17
4. La Scala Teixeira, C.V., Motoyama, Y., de Azevedo, P.H.S.M., Evangelista, A.L., Steele, J., and Bocalini, D.S. (2018). Effect of resistance training set volume on upper body muscle hypertrophy: are more sets really better than less? Clinical Physiology and Functional Imaging 38, 727–732
5. Figueiredo, V.C., de Salles, B.F., and Trajano, G.S. (2018). Volume for Muscle Hypertrophy and Health Outcomes: The Most Effective Variable in Resistance Training. Sports Medicine 48, 499–505
6. Burd, N.A., Holwerda, A.M., Selby, K.C., West, D.W.D., Staples, A.W., Cain, N.E., Cashaback, J.G.A., Potvin, J.R., Baker, S.K., and Phillips, S.M. (2010). Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signalling molecule phosphorylation in young men. Journal of Physiology 588, 3119–3130