HPCスタッフコラム

2021.02.18

体幹の安定性と股関節の発揮筋力の関係

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コア(体幹)の安定性のトレーニングの主な目的は体幹筋群の機能を高め脊柱の安定性を高めることです。体幹筋群の働きによって腹腔内圧が増大し(2、4)、腹腔内圧が増大することで脊柱への負荷を減少させられることは研究によっても証明されています(1、2)。腹腔内圧は力発揮にも関係しており、スクワットにおいて発揮筋力が大きくなるにつれ腹腔内圧が増大することも分かっています(3)。また、興味深いことに、股関節伸展の発揮トルクは腹腔内圧と有意な相関がありながら、ハムストリングの横断面積や大殿筋の筋厚とは相関がなかったとの報告もあります(5)。しかしながら、これまでの研究では相関関係の身が検証されてきており、「腹腔内圧の増大が筋力発揮の増加につながる」という因果関係については明らかになっていません。

今回紹介する研究では、腹腔内圧と股関節および膝関節における力発揮との因果関係が検証されています。

 

Does intra-abdominal pressure have a causal effect on muscle strength of hip and knee joints?
腹腔内圧は股関節と膝関節の筋力と因果関係があるか?

Tayashiki, K, Kanehisa, H, and Miyamoto, N.

J Strength Cond Res 35(1): 41–46, 2021

目的
腹腔内圧(IAP:Intra-abdominal pressure)と下肢筋力に因果関係があるかどうかは明確になっていない。この研究は、呼吸の変化によって引き起こされるIAPの変化が股関節および膝関節の伸展と屈曲の筋力に影響を及ぼすかどうかを明らかにすることを目的とした。

被験者
20歳~27歳の活動的な男性被験者18名(22.0±2.2歳、1.71±0.03 m、68.1±6.1 kg)

方法
18名の健康な男性が股関節および膝関節の伸展筋と屈曲筋の最大自発的等尺性収縮(MVICs:Maximum voluntary isometric contractions)を最大吸気(吸気状態)、最大呼気(呼気状態)、または通常の呼吸(通常上体)で息を止めた状態でそれぞれ行った。腹腔内圧は直腸に設置した圧トランスデューサーを用いて計測し、トルクが最大となったときに記録した。

結果
それぞれのMVIC中のIAPは吸気状態において、呼気状態よりも有意に高かった(p<0.05)。股関節伸展の最大トルクは吸気状態において呼気状態よりも有意に大きかった(p<0.05)。対照的に、股関節屈曲、膝関節伸展、膝関節屈曲のそれぞれの最大トルクにおいては、3つの息を止めた条件間に違いはなかった。IAPはそれぞれの息を止めた条件において股関節伸展の最大トルクと有意な相関関係があった。

結論・応用
この結果は、IAPの十分な増加は股関節伸展筋群の筋力を特異的に向上させるという因果関係があることを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

まず、腹腔内圧は息を吸って呼吸を止めた状態で有意に高くなることが示されました。これはHaginsら(6)の検証結果とも一致し、また、Tayashiki(5)らの研究でも体幹部のブレーシング(お腹を膨らませるようにして体幹部を固める方法)とホロウイング(お腹をへこませるようにして体幹部を固める方法、腹横筋の筋活動が増大するといわれている)ではブレーシングのほうが腹腔内圧を増大させると示されました。これらのことから、脊柱を安定させるために腹腔内圧を高めるには、息を吸った状態で呼吸を止めることが有効であることが示されました。スクワットやデッドリフトなど脊柱の安定性がより求められるようなエクササイズでは、動作を開始する前に大きく息を吸ってから息を止めることで、安定性を向上させるだけでなく脊柱への負荷も減らすことができるでしょう。

さらに、この研究で明らかになった興味深い点は腹腔内圧と股関節伸展の力発揮の関係も示されたことです。この結果と、体幹筋群によって体幹筋群と股関節伸展筋の筋力発揮が向上したことを示したTayashikiらの研究(7)から、腹腔内圧と股関節伸展筋群の因果関係がうかがえます。つまり、腹腔内圧の増大が股関節伸展筋群の筋力発揮につながる可能性があり、腹腔内圧を向上させるような体幹筋群のトレーニングは股関節の伸展筋力を向上させる可能性があります。

股関節の伸展はスプリントや跳躍といった多くのスポーツ動作に大きく貢献します。メカニズムは明らかになっていませんが、股関節伸展筋の横断面積や筋厚と筋力発揮には相関関係が見られないことから(5)、股関節伸展の力発揮を向上させるためには、腹腔内圧を向上させることは有効な手段の一つであるかもしれません。

 

参考文献
1. Hodges, P.W., Eriksson, A.E.M., Shirley, D., and Gandevia, S.C. (2005). Intra-abdominal pressure increases stiffness of the lumbar spine. Journal of Biomechanics 38, 1873–1880
2. Stokes, I.A.F., Gardner-Morse, M.G., and Henry, S.M. (2010). Intra-abdominal pressure and abdominal wall muscular function: Spinal unloading mechanism. Clinical Biomechanics 25, 859–866
3. Harman, E.A., Frykman, P.N., Clagett, E.R., and Kraemer, W.J. (1988). Intra-abdominal and intra-thoracic pressures during lifting and jumping. Medicine and Science in Sports and Exercise 20, 195–201
4. Tayashiki, K., Takai, Y., Maeo, S., and Kanehisa, H. (2015). Intra-abdominal Pressure and Trunk Muscular Activities during Abdominal Bracing and Hollowing. International Journal of Sports Medicine 37, 134–143
5. Tayashiki, K., Hirata, K., Ishida, K., Kanehisa, H., and Miyamoto, N. (2017). Associations of maximal voluntary isometric hip extension torque with muscle size of hamstring and gluteus maximus and intra-abdominal pressure. European Journal of Applied Physiology 117, 1267–1272
6. Hagins, M., Pietrek, M., Sheikhzadeh, A., Nordin, M., and Axen, K. (2004). The Effects of Breath Control on Intra-Abdominal Pressure during Lifting Tasks. Spine 29, 464–469
7. Tayashiki, K., Maeo, S., Usui, S., Miyamoto, N., and Kanehisa, H. (2016). Effect of abdominal bracing training on strength and power of trunk and lower limb muscles. European Journal of Applied Physiology 116, 1703–1713.