HPCスタッフコラム

2021.03.11

股関節可動域の向上方法

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股関節のモビリティ(可動性)は腰椎と密接な関係性があり、腰痛患者においては股関節の可動性が小さくなっていることが報告されています(1、2)。また腰痛患者においては股関節のモビリティが大きいほど腰椎への負荷が小さくなるとの報告もあります(3)。さらに、股関節のダイナミックウォームアップによってスプリントタイムの向上が起こったとする報告(5)や、股関節のモビリティの大きさがラグビーのスクラムの強さに関連しているとの報告(4)もあり、股関節のモビリティはパフォーマンスとの関係もあるようです。

そんな股関節のモビリティを向上させる方法としてまず挙げられるのがストレッチです。しかし、Kiblerらは、胴体における近位のスティフネスが遠位の部位(体肢)のモビリティを向上させるという考え方を(6)唱えており、コアの安定性の向上が股関節のモビリティを向上させる可能性も示唆しています。そこで、今回の研究では股関節の可動域を向上させるのに効果的な方法としてストレッチやコアの安定性のトレーニングを用い、その効果を検証しています。

 

Hip joint range of motion improvements using three different interventions.
3つの異なる介入方法を用いた股関節可動域の改善

Moreside, JM and McGill, SM.  

J Strength Cond Res 26(5): 1265–1273, 2012

目的
この研究の目的は、受動的な股関節の可動域(ROM:Range of Motion)3つのエクササイズ介入方法とコントロール群の効果を分析することである。受動的な可動域の向上方法についてのこれまでの研究では、特に股関節に対するストレッチ方法に集中していた。コアの安定性や、運動トレーニング、そして筋膜ストレッチのテクニックが症状のない選択されたグループの股関節のモビリティに与える効果は明確になっていない。

被験者
股関節のモビリティに制限のある24名の男性(身長=178.3±7.1 cm、体重=81.2±15.05 kg)

方法
この研究では、股関節のモビリティに制限のある(<50パーセンタイル)24名の若い男性が無作為に4つのグループに振り分けられた:ストレッチ、股関節と体幹の運動コントロールエクササイズを伴うストレッチ、運動コントロールエクササイズを伴うコアの持久力トレーニング、そしてコントロール群。それぞれのグループ、股関節ROM、動作パターン、そしてコア持久力のタイムに応じて6週間のホームエクササイズプログラムがそれぞれに処方された。股関節ROMの向上に対するグループ毎の課題の効果を分析するために2方向の分散分析をおこなった。

結果
両方のストレッチのグループは股関節ROMに有意な向上を示し(p<0.05)、獲得された股関節のモビリティは75パーセンタイル以上であり、回旋の向上は56%にも及んだ。ストレッチをせずに、コア持久力と運動コントロールエクササイズだけを処方されたグループもROMにおいて中程度の向上を示したが、回旋に関しては有意なわずかな向上だけであった。コア持久力の保持タイムの平均は38~53%向上した。

結論・応用
これらの結果は、股関節に加えて、上半身の筋膜組織も目的としたストレッチは、股関節モビリティに制限のある若い男性において股関節の可動域を劇的に向上させることを示唆している。股関節のROMは能動的なストレッチをしていないグループでも向上したということは、安定性や体肢をリハビリしている際の「近位の硬直トレーニング」を含むことの潜在的な効果を強調している。

オリジナルの文献はこち

 

今回用いられたストレッチの方法は、単なる下肢のストレッチだけではなく、全身の筋膜による力の伝達も考慮した上半身の連動したストレッチが用いられました。そのようンストレッチの結果、股関節の回旋可動域の向上は、ストレッチのみのグループとストレッチ+エクササイズのグループにおいて右側の平均でそれぞれ56.6%と56.1%、左側で32.0%と37.4%と有意に向上しました。またこれらのグループでは股関節の伸展可動域も向上しました。

コントロール群では介入前後の有意差は見られなかったものの、ストレッチをせずにコアエクササイズのみ行っていたグループには介入前後で有意な差が見られました。変化率はあまり大きくありませんでしたが、右側の股関節の回旋可動域で9.7%、左側で13.2%向上しました(p<0.05)。股関節の伸展には有意な差は見られませんでした。そして、このグループにおいてはコアの持久力の変化も計測され、統計上では介入前後の有意差は出なかったものの、効果量が0.6~2.06とエクササイズの効果の大きさがうかがえました。これらのことは、Kiblerらが唱えた概念を支持し、体幹部分の安定性の向上が四肢のモビリティを向上させることを示しました。

今回紹介した研究では、一般的なストレッチとの比較は検証されませんでしたが、目的とする部位(この研究では股関節)に関連した筋膜を合わせてストレッチすることによる可動域の向上効果が示されました。また、そのようなストレッチと比較して効果は小さかったもののコアの安定性の向上が股関節の可動域の向上に寄与することも示されました。これらのことから、関節の可動域については、筋の柔軟性だけでなく、筋膜などの複合体や近位部の安定性など様々な要素が関与していることがうかがえます。

 

参考文献
1. Sjolie, A.N. (2004). Low-back pain in adolescents is associated with poor hip mobility and high body mass index. Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports 14, 168–175
2. Dolan, P., and Adams, M.A. (1993). Influence of lumbar and hip mobility on the bending stresses acting on the lumbar spine. Clinical Biomechanics 8, 185–192
3. Ko, M. J., Noh, K. H., Kang, M. H., & Oh, J. S. (2016). Differences in performance on the functional movement screen between chronic low back pain patients and healthy control subjects. Journal of Physical Therapy Science, 28(7), 2094–2096
4. Clayton, J.D., Kirkwood, R.N., and Gregory, D.E. (2019). The influence of hip mobility and quadriceps fatigue on sagittal spinal posture and muscle activation in rugby scrum performance. European Journal of Sport Science 19, 603–611
5. Cetin, O., and Isik, O. (2020). The acute effects of a dynamic warm-up including hip mobility exercises on sprint, agility and vertical jump performance. European Journal of Human Movement 45, 55–61
6. Kibler, W.B., Press, J., and Sciascia, A. (2006). The role of core stability in athletic function. Sports Medicine (Auckland, N.Z.) 36, 189–198