HPCスタッフコラム

2022.07.26

エクササイズ中に足がつる原因

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エクササイズによる筋痙攣(EAMC: Exercise-Associated Muscle Cramps)とはスポーツや運動の最中または直後に起こる急性的な痛みや筋の硬直を伴うものであり、数日にわたって筋肉痛が起こることもあります(1)。一般的な筋痙攣を引き起こす代表的な原因といわれているものに脱水や電解質の枯渇があります。脱水や電解質の枯渇により血漿中の浸透圧が変化することで間質腔が減少し、特定の運動神経終末が圧迫されることで筋痙攣が引き起こされるとされています(2)。しかしながら、近年は、この仮説では気温が低かったり安定したりしている時期の運動時に起こる筋痙攣を説明できず、またEAMCを起こした人は必ずしも電解質の低下や血清浸透圧に以上は見られなかったとの報告もあります(3)。

そのような背景から、今回紹介する研究ではマラソン中または直後に筋痙攣をおこしたランナーとそうでないランナーを対象に、脱水や電解質の状態に加えて、筋損傷やトレーニング背景などの要素も比較しています。

 

Muscle Cramping in the marathon: Dehydration and electrolyte depletion vs. muscle damage.
マラソンにおける筋痙攣:脱水症状と電解質の枯渇vs筋損傷

Martínez-Navarro, I, Montoya-Vieco, A, Collado, E, Hernando, B, Panizo, N, and Hernando, C.

J Strength Cond Res 36(6): 1629–1635, 2022

目的
この研究の目的は、マラソン中にエクササイズによる筋痙攣(EAMC: Exercise-Associated Muscle Cramps)を経験したランナーとそうでないランナーにおいて、脱水症状についての変数、血中の電解質、そして筋損傷の血中マーカーを比較することである。さらに、レースのペーシングとトレーニング背景の分析も検証した。

被験者
98名(男性83名(年齢:38.76±3.65歳、VO2max::55.74±5.14 ml/kg/min、ランニング歴:6.58±2.91年、週間の走行距離:64.45±13.21 km、ストレングストレーニングを行う割合:42.2%;女性15名(年齢:38.50±3.63歳、VO2max::48.27±3.60 ml/kg/min、ランニング歴:5.38±1.80年、週間の走行距離:55.66±12.79 km、ストレングストレーニングを行う割合:26.7%))のマラソンランナーがこの研究に参加した。

方法
被験者は心肺循環器エクササイズのテストを課された。レースの前と後で、血液および尿のサンプルが採取され、体重(BM)が計測された。レース直後にEAMCの診断が行われた。

結果
88名のランナーがマラソンを走り切り、そのうち20名(24%)がレース中または直後にEAMCを患った。体重の変動、レース後の尿比重、および血中のナトリウムとカリウムの濃度は筋痙攣の起きた群とそうでなかった群で違いはなかった。逆に、EAMCを起こしたランナーはレース後のクレアチンキナーゼ(EAMC群:464.17 ± 220.47 vs.非EAMC群:383.04 ± 253.41 UI/L, p = 0.034)と乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH:Lactate dehydrogenase)(EAMC群:362.27 ± 72.10 vs. 非EAMC群:307.87 ± 52.42 UI/L, p= 0.002)の有意に高い数値を示した。レースの24時間後にも両方のバイオマーカーの数値はEAMCを起こした者において高かった(CK(EAMC群vs非EAMC群):2,438.59 ± 2,625.24 vs. 1,166.66 ± 910.71 UI/L, p= 0.014;;LD(EAMC群vs非EAMC群):277.05 ± 89.74 vs. 227.07 ± 37.15 UI/L, p= 0.021)。レースのためのトレーニングにストレングストレーニングを取り入れていたランナーの割合の差は統計的な有意性に近かった(EAMC群:25%、非EAMC群:47.6%;p= 0.074)。最終的に、筋痙攣の起きた群とそうでなかった群の相対的なスピードは25㎞意向でのみ異なった(p< 0.05)。

結論・応用
したがって、EAMCの起きたランナーはマラソン後の脱水と電解質の枯渇が大きかったのではなく、筋損傷のバイオマーカーの有意に高い濃度を示していた。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究における比較では、マラソン時の脱水や血中の電解質の減少はエクササイズ中の筋痙攣との関係性が小さいことが示されました。筆者らは、筋損傷マーカーの上昇していたことから筋痙攣には筋損傷による筋収縮のメカニズムの変化によるものであるとの考えを示しています。これは、他の研究による見解とも一致います。アイロンマンレースにおける筋痙攣を調査したSulzerらの研究(4)では、体重の減少や電解質の減少に有意な差はみられず、筋痙攣をおこした人は表面筋電図の活動に増大が見られたと報告しています。JahicとBegicによる簡潔なレビュー(5)では、筋への過負荷や筋疲労によって筋紡錘からの発火機能とゴルジ腱器官(GTO)による抑制機能のバランスが崩れることにより、それらの筋に筋痙攣が起きると述べています。

また、この研究の興味深い発見の一つに、ストレングストレーニングを行う人のほうが筋痙攣の割合が少ない傾向にあることです。あるケースレポート(6)ではトライアスロンのレース中にハムストリングの筋痙攣をおこしていた患者に、殿筋群のトレーニングを処方し筋力を向上させたところ、その後はハムストリングの筋痙攣が起きなくなったと報告しています。これらのことから、筋痙攣を予防する方法の一つとして、ストレングストレーニングによる対象部位の強化が示唆されます。

 

参考文献
1.  Miller, K. C., Stone, M. S., Huxel, K. C., & Edwards, J. E. (2010). Exercise-associated muscle cramps: causes, treatment, and prevention. Sports health, 2(4), 279–283.
2. Schwellnus, M. P. (2009). Cause of exercise associated muscle cramps (EAMC)—altered neuromuscular control, dehydration or electrolyte depletion? British journal of sports medicine, 43(6), 401-408.
3.  Schwellnus, M. P., Nicol, J., Laubscher, R., & Noakes, T. D. (2004). Serum electrolyte concentrations and hydration status are not associated with exercise associated muscle cramping (EAMC) in distance runners. British journal of sports medicine, 38(4), 488-492.
4.  Sulzer, N. U., Schwellnus, M. P., Noakes, T. D. (2005) Serum Electrolytes in Ironman Triathletes with Exercise-Associated Muscle Cramping, Medicine & Science in Sports & Exercise, 37(7), 1081-1085.
5.  Jahic, D., & Begic, E. (2018). Exercise-Associated Muscle Cramp-Doubts About the Cause. Materia socio-medica, 30(1), 67–69
6. Wagner, T., Behnia, N,, Won-Kay Lau Ancheta, W. K. L., Shen, R., Farrokhi, S., and Powers, C. M. (2010). Strengthening and Neuromuscular Reeducation of the Gluteus Maximus in a Triathlete with Exercise-Associated Cramping of the Hamstrings. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy 40(2), 112-119