HPCスタッフコラム

2019.04.03

フォームローラーと筋持久力と肩関節の柔軟性

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以前コラムにフォームローラーの効果についての記事を掲載しました。フォームローラーなどを用いて軟部組織に働きかける方法は実施部位や周囲の柔軟性や可動性を改善させることをすでにご存じの方も多いはず。

その軟部組織の一つに筋膜がありますが、実はまだまだ筋膜についてはその構造や分類に対して多くの議論がなされています(筋膜という日本語訳も適当でないと言われています)。Wilkeらによるシステマチック・レビュー(1)において、著者らは「身体のほとんどの筋は結合組織によってつながっている」と結論付けています。この結合組織とは筋筋膜を指し、この線維状の膜によって身体の筋組織がつながっていることから、一部位の張りが離れた別部位の痛みなどに関連していることを証明することができるだろうとしています。

今回紹介する研究では、2つの事象を検討しています。1つ目はハムストリングへのフォームローラーの実施が拮抗筋の筋持久力に与える影響。もう一つはハムストリングへのフォームローラーの実施が肩関節への柔軟性に与える影響です。

 

Posterior thigh foam rolling increases knee extension fatigue and passive shoulder range-of-motion.
大腿部後面にフォームローラーを用いることで膝関節伸展の疲労を増加させ、受動的な肩関節の可動域を向上させる

Monteiro, ER, Costa, PB, Corrêa Neto, VG, Hoogenboom, BJ, Steele, J, and da Silva Novaes, J. J Strength Cond Res 33(4): 987–994, 2019

目的
この研究の目的は異なるフォームローラー(FR)の実施時間が膝関節伸展筋の疲労と肩関節の受動的な可動域(PROM)に与える急性的な影響を分析すること。

被験者
12名の健康で活動的な男性及び女性(年齢:27.58±3.23歳、身長:166.00±7.03 cm、体重65.70±9.59 kg)

方法
被験者は2つの実験に3週間の間をあけて参加し、同じ被験者が各実験における全ての過程を行った。実験1では、被験者は事前に測定された10RMの負荷でコンセントリック局面の動作を完了できなくなる回数で3セットのニーエクステンションを行った。セット間に5分の休息を設け、被験者は3つの異なる休息方法(コントロールとして5分間のパッシブレスト(CG)、FRを60秒行う(FR60)、及びFRを120秒行う(FR120))を無作為な順番で3日に分けて行った。実験2は、肩関節の屈曲及び伸展のPROMの基準値を2種類(基準値1、基準値2)の測定で行った。基準値の測定の後、被験者はハムストリングに対して60秒間のFRを行った。手動の角度計を用いて、FR介入の直後(post-0)、10分後(post-10)、20分後(post-20)、30分後(post-30)、24時間後(post-24)、及び48時間後(post-48)にPROMを計測し、長時間のPROMへの効果を評価した。

結果
疲労の指標は、FR60(p=0.035、Δ%=6.49)やFR120(p=0.002、Δ%=9.27)と比較してCGにおいてより有意に高い疲労への耐性を示し、FR60とFR120の間には有意な差はなかった(p=0.513、Δ%=2.78)。肩関節屈曲のPROMは、post-0において基準値1(p=0.002、d=1.58)、基準値2(p<0.001、d=1.92)及びより高い方の基準値(基準値1または2でより高い数値)(p<0.001、d=1.59)より増加し、基準値2と比較してpost-10でも増加量が維持された(p=0.017、d=1.55)。肩の伸展PROMはpost-0において基準値1(p<0.001、d=2.61)、基準値2(p<0.001、d=2.83)及びより高い方の基準値(p<0.001、d=2.59)より増加し、post-10において基準値1(p<0.001、d=1.93)、基準値2(p<0.001、d=2.16)及びより高い方の基準値(p<0.001、d=1.91)と比較した増加量が維持され、post-20においても基準値1(p=0.008、d=1.58)、基準値2(p=0.001、d=1.85)及びより高い方の基準値(p<0.011、d=1.55)と比較した増加量が維持された。

結論・応用
フォームローラーの実施時間が60秒を超えることは下肢の力を継続して発揮する能力に対して有害であり、ニーエクステンションのセット間においてハムストリングへの実施は避けるべきである。PROMの結果は、ハムストリングへのフォームローラーの実施が肩関節屈曲と伸展の両方のPROMを増加させることを示した。この研究は、身体の機能性に対してフォームローラーの全身への効果を示したことから、臨床的(リハビリテーション)に重要な意味を持つであろう。

オリジナルの文献はこちら

 

同一箇所への60秒を超えるフォームローラーの実施は筋持久力に対して負の効果を与えることが示さされました。著者はこの現象が起こるメカニズムに対して考察はしていませんでしたが、Monteiroによる2件の研究(2,3)では、拮抗筋と主動筋両方へのフォームローラーの効果を検証し、いずれにおいても筋持久力を減少させると報告しています。またこれらの研究もフォームローラーを60秒以上実施しています。パワーやより高い筋力の発揮に対しての効果はわかりませんが、筋持久力が大事な要素となるスポーツや身体活動においては、60秒を超えるフォームローラーの実施は避けた方が良いでしょう。

また、興味深いのはハムストリングへのフォームローラーの実施で肩関節の可動域が向上したことです。著者らは考えられる別の要因として中枢神経系への働きかけもあるとしていますが、前述したWilkeらのレビューの通り、一つの部位への介入が他の部位へ影響を及ぼすことを示す結果とも言えるでしょう。まだまだ、さらなる研究が必要な分野ではありますが、トレーニングやリハビリ、治療といった幅広い分野に応用できる発見ではないでしょうか。

フォームローラーなどによる軟部組織への介入は実施方法や部位などによって効果が異なってくると考えられ、目的に応じて利用していくことが重要でしょう。

参考文献
1. Wilke, J., Krause, F., Vogt, L., & Banzer, W. (2016, March 1). What is evidence-based about myofascial chains: A systematic review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. W.B. Saunders
2. Monteiro, E. R., Vigotsky, A., Škarabot, J., Brown, A. F., Ferreira de Melo Fiuza, A. G., Gomes, T. M., … da Silva Novaes, J. (2017). Acute effects of different foam rolling volumes in the interset rest period on maximum repetition performance. Hong Kong Physiotherapy Journal, 36, 57–62
3. Monteiro, E. R., Skarabot, J., Vigotsky, A. D., Brown, A. F., Gomes, T. M., & Novaes, J. da S. (2017). Maximum repetition performance after different antagonist foam rolling volumes in the inter-set rest period. International Journal of Sports Physical Therapy, 12(1), 76–84