HPCスタッフコラム

2020.12.16

バンドを用いたスクワットでパワーと筋力を向上させる

画像

スクワットやベンチプレスなどのエクササイズを行う際にプレートに加えて、レジスタンスバンドやチェーンなどを用いるトレーニングは可変性抵抗トレーニング(Accommodating Resistance Training)と呼ばれています。レジスタンスバンドが伸びるにしたがって、またはチェーンが床から離れるにしたがってバーベルにかかる抵抗が増加することからこのように呼ばれています。

以前このコラムでも紹介しました(こちら)が、可変性抵抗には、適切な重量を用いることで活動後増強反応を促し、実施後のジャンプ(1)やスプリント(2)のパフォーマンスを向上させる効果があります。また、長期的なトレーニングの効果として、筋力の向上(3、4、5)やパワー(4、5)の向上が報告されています。

今回紹介する研究では、この可変性抵抗を低負荷のスクワットに加え高速度で実施することに加え、スクワットの動作速度を変化させることが筋力とパワーの向上にどのように影響を及ぼすかを検証しています。

 

Alterations in speed of squat movement and the use of accommodated resistance among college athletes training for power.
大学アスリートのパワーのためのトレーニングにおけるスクワット動作の速度の変化と可変性抵抗の利用

Rhea, MR, Kenn, JG, and Dermody, BM.

J Strength Cond Res 23(9): 2645-2650, 2009

目的
この研究の目的は、高重量・低速度の動作と可変的なレジスタンストレーニングが最大パワーと筋力の向上に与える影響を評価することである。

被験者
48名のNCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学スポーツ協会)のディビジョン1アスリート(年齢:21.4±2.1歳、全員男性)

方法
48名の大学アスリートがこの12週間のトレーニング介入プログラムに集められた。最大筋力と跳躍パワーをトレーニングプログラムの前と後で評価した。アスリートは無作為に3つトレーニンググループ内の1つに振り分けられた:高負荷・低速度動作(Slow)、軽負荷・高速度動作(Fast)、可変性軽負荷を用いた高速度動作(FACC)。すべてのトレーニンググループは、下半身の複合的なエクササイズを含むフリーウェイとエクササイズから構成された同様のトレーニングプログラムを行った。トレーニングプログラム間の唯一の違いは被験者がスクワットエクササイズを行う速度とバンドの使用であった(Slowグループ:0.2~0.4 m/s、Fastグループ:0.6~0.8 m/s、FCAAグループ:大きなレジスタンスバンドを用いた可変抵抗を加えて0.6~0.8 m/s)。

結果
測定後のデータによって、SlowとFACCグループ間にパワーの向上に有意な差が明らかになった(p=0.02)。向上率(%)と効果量(ES)はFACCグループにおいてより大きなトレーニング効果を示しており(17.8%、ES=1.06)、Fastグループ(11.0%、ES=0.8)はSlowグループ(4.8%、ES=0.28)な適応を示した。FACCとSlowグループは筋力を同等に向上させた(FACC:9.44%、ES=1.10;Slow:9.59%、ES=1.08)。Fastグループの筋力向上はかなり少なく、3.20%で効果量はたったの0.38であった。

結論・応用
レジスタンスバンドを用いた可変式負荷のトレーニングは最、最大高重量、低速度のレジスタンスエクササイズよりも最大フォースおよび最大パワーにおいてはより大きなトレーニング効果を及ぼすようである。スポーツのコンディショニングの専門家は、パワーの向上を増大させるために、バンドと高速度の筋収縮を利用することができる。

オリジナルの文献はこちら

 

動作速度の違いがトレーニングへの適応に影響を及ぼすことがこの研究で示されました。トレーニングへの適応は動作速度に特異的であり、パワーの向上には軽い負荷でより速い動作速度が、絶対筋力の向上にはより遅い速度で高重量ができしているようです。この研究では低速度のスクワットで0.4 m/s、高速度のスクワットで0.8 m/sが指標となり、1RMに換算するとそれぞれ85%~100%以上と45~65%ほどになります(ただし、この換算は個人差が大きく関係しているため、各々の実測値を得ることが大切です)。Sorianoらによるメタ分析においても、スクワットエクササイズを用いたパワーの向上には最大挙上重量の30%~70%が適しているとしています(6)。また非トレーニング者を対象にした研究ですが、遅い動作によるトレーニングではパワーの向上が起きないとの報告もあります(7)。これらのことから、スクワットを用いてパワーを向上させようとする場合は、中程度の負荷を使用し、動作速度をできる限り速くすることが重要といえるでしょう。

さて、この研究で得られた結果で興味深いのは、通常のフリーウェイトのトレーニング効果が速度に特異的であったものの、バンドによる可変性抵抗を加えた動作速度の速いスクワットを行うことで、パワーと筋力の両方を向上させることができました。この論文の筆者は、可変性抵抗を用いることで筋活性や筋間コーディネーションの適応を刺激し、そのために筋力が向上したのではないかと考察していますが、これについてはさらなる研究が必要であるとも述べています。同じ重量を用いて最高速度とその半分の速度でベンチプレスを行い、その効果を比較した研究では、最高速度で行った場合のほうが、トレーニング効果が大きかったとの報告もあります(8)。バンドを用いることで、最終可動域まで速度を維持させるためにより力の発揮を“意識”しなければならないことも要因の一つかもしれません。

パワー発揮と筋力の向上を目的とした際に、可変性抵抗を用いることで両方の身体特性を同時に向上させることができる可能性がこの研究によって示されました。

 

参考文献
1. Scott, D.J., Ditroilo, M., and Marshall, P. (2018). Effect of accommodating resistance on the post-activation potentiation response in rugby league players. Journal of Strength and Conditioning Research 32, 2510-2520
2. Wyland, T.P., Van Dorin, J.D., and Reyes, G.F.C. (2015). Postactivation potentation effects from accommodating resistance combined with heavy back squats on short sprint performance. Journal of Strength and Conditioning Research 29, 3115–3123
3. Soria-Gila, M.A., Chirosa, I.J., Bautista, I.J., Baena, S., and Chirosa, L.J. (2015). Effects of variable resistance training on maximal strength: A meta-analysis. Journal of Strength and Conditioning Research 29, 3260–3270
4. Anderson, C.E., Sforzo, G.A., and Sigg, J.A. (2008). The effects of combining elastic and free weight resistance on strength and power in athletes. Journal of Strength and Conditioning Research 22, 567–574
5. Rivière, M., Louit, L., Strokosch, A., and Seitz, L.B. (2017). Variable Resistance Training Promotes Greater Strength and Power Adaptations Than Traditional Resistance Training in Elite Youth Rugby League Players. Journal of Strength and Conditioning Research 31, 947–955
6. Soriano, M.A., Jiménez-Reyes, P., Rhea, M.R., and Marín, P.J. (2015). The Optimal Load for Maximal Power Production During Lower-Body Resistance Exercises: A Meta-Analysis. Sports Medicine 45, 1191–1205
7. Neils, C.M., Udermann, B.E., Brice, G.A., Winchester, J.B., and McGuigan, M.R. (2005). Influence of contraction velocity in untrained individuals over the initial early phase of resistance training. Journal of Strength and Conditioning Research 19, 883–887
8. González-Badillo, J.J., Rodríguez-Rosell, D., Sánchez-Medina, L., Gorostiaga, E.M., and Pareja-Blanco, F. (2014). Maximal intended velocity training induces greater gains in bench press performance than deliberately slower half-velocity training. European Journal of Sport Science 14, 772–781