HPCスタッフコラム

2021.01.05

ヒップスラストとスプリントパフォーマンスの関係

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同じ股関節の伸展を伴うエクササイズであるスクワットとヒップスラストですが、股関節伸展筋への負荷のかかり方は大きく異なります。スクワットでは、股関節の屈曲角度が大きいときに股関節伸展筋群への負荷が大きくなりますが、直立の姿勢においては負荷が非常に小さくなります。これは立位で行うRDLやデッドリフトなどのエクササイズにおいても当てはまります。一方のヒップスラストでは、股関節が伸展位でも継続して大きな負荷をかけることができます。

このヒップスラストにおける力発揮の仕方が、スプリント時に求められる水平方向への力発揮へと似ていることから、近年はスプリントパフォーマンス向上に対するヒップスラストの有効性が注目されています。研究でもヒップスラストとスプリントパフォーマンスの関連性が示されてきています(1、2、3、7)。

今回紹介する研究では、股関節の伸展を伴う3種類のエクササイズ(バックスクワット、スプリットスクワット、ヒップスラスト)の筋活性レベルを比較するとともに、スプリント時の力との関係性を検証しています。

 

Activation of the gluteus maximus during performance of the back squat, split squat, and barbell hip thrust and the relationship with maximal sprinting.
バックスクワット、スプリットスクワット、およびヒップスラストのパフォーマンス中の大殿筋の筋活性と最大スプリントとの関係性

Williams, MJ, Gibson, N, Sorbie, GG, Ugbolue, UC, Brouner, J, and Easton, C.

J Strength Cond Res 35(1): 16–24, 2021

目的
この研究の目的は、バーベルヒップスラスト、バックスクワットそしてスプリットスクワット間の大殿筋の筋活性と床反力を比較し、それらの結果と最大スプリント時の垂直および水平方向の力との関係性を検証することである。

被験者
12名の男性チームスポーツアスリート(年齢25.0±4.0歳;身長184.1±6.0 cm;体重82.2±7.9 kg)で、最低でも3年のレジスタンストレーニングの経験がある。

方法
12名のチームスポーツアスリートが、3つの異なるストレングスエクササイズの動作をそれぞれの3RMの重量で行った。フォースプレートを用いて床反力を測定し、大殿筋の上部と下部の筋活動(EMG:Electromyography)を各脚で測定し、最大自発的等尺性収縮(MVIC:Maximum Voluntary Isometric Contraction)の割合で表した。その後、被験者は最大速度と水平および垂直の床反力を計測するために非電動式のトレッドミル上でスプリントを行った。

結果
床反力が低かったにも関わらず、大殿筋の最大EMG活動はヒップスラストにおいてバックスクワット(p=0.024;95%の信頼区間(CI:Confidence Interval)=4~56% MVIC)、およびスプリットスクワット(p=0.16;95% CI=6~58%)よりも大きかった。最大スプリント速度は前後方向の水平床反力(r=0.72)およびヒップスラスト中の最大床反力(r=0.69)の両方と相関があったが、他の変数とは関係性がなかった。

結論・応用
バーベルヒップスラスト中の大殿筋の筋活性の増加と最大スプリント速度との関係性は、このエクササイズがバックスクワットやスプリットスクワットと比較してこの筋群のトレーニングとして最適であるかもしれないことを示唆している。

オリジナルの文献はこちら

 

まず大殿筋の筋活性ですが、他の研究(4、5、7)や以前のコラムで紹介した研究(6)と同様に他のエクササイズと比較してヒップスラストにおいて最も大きくなったことが示されました。またこの研究では片側性のスクワットとの比較も行われましたが筋活性についてはヒップスラストには及びませんでした。大殿筋の筋活性レベルとスプリント速度との関係性も検証されましたが、どのエクササイズにおいても有意な相関は見られませんでした。

この研究ではさらに、各エクササイズ中の床反力が測定されました。バックスクワットとスプリットスクワットの床反力とスプリントパフォーマンスに有意な相関は見られませんでしたが(それぞれr = 0.52, p = 0.086;r = 0.53, p = 0.076)、ヒップスラストの床反力とスプリント速度の間には有意な相関が示されました。このことから、ヒップスラストのようなエクササイズ中の力発揮はスプリントパフォーマンスと関連があることが示唆されました。ヒップスラストの発揮筋力の向上がスプリントパフォーマンス向上と関係があることを示した研究(2、3)もあるため、スプリントパフォーマンスを向上させるためにレジスタンストレーニングプログラムにヒップスラストを組み込むことは有効であると考えられます。

最後に、各エクササイズの挙上重量とスプリントパフォーマンスの関係性も検証されていれば面白いのですが残念ながらこの研究では検証されませんでした。先行研究を探しても見当たりませんでしたが、方向転換走のタイムとヒップスラストの相対最大挙上重量と相関(r=-0.452~-0.473、p<0.05)が見られたとする報告(8)もあることから、今後はヒップスラストの挙上重量とスプリントパフォーマンスの関係性を調査しても面白いかもしれません。

 

参考文献
1. Loturco, I., Contreras, B., Kobal, R., Fernandes, V., Moura, N., Siqueira, F., Winckler, C., Suchomel, T., and Pereira, L.A. (2018). Vertically and horizontally directed muscle power exercises: Relationships with top-level sprint performance. PLoS ONE 13
2. Contreras, B., Vigotsky, A.D., Schoenfeld, B.J., Beardsley, C., McMaster, D.T., Reyneke, J.H.T., and Cronin, J.B. (2017). Effects of a Six-Week Hip Thrust vs. Front Squat Resistance Training Program on Performance in Adolescent Males: A Randomized Controlled Trial. Journal of Strength and Conditioning Research 31, 999–1008
3. Arcos, A.L., Yanci, J., Mendiguchia, J., Salinero, J.J., Brughelli, M., and Castagna, C. (2014). Short-term training effects of vertically and horizontally oriented exercises on neuromuscular performance in professional soccer players. International Journal of Sports Physiology and Performance 9, 480–488
4. Delgado, J., Drinkwater, E.J., Banyard, H.G., Haff, G.G., and Nosaka, K. (2019). Comparison Between Back Squat, Romanian Deadlift, and Barbell Hip Thrust for Leg and Hip Muscle Activities During Hip Extension. Journal of Strength and Conditioning Research 33, 2595–2601
5. Contreras, B., Vigotsky, A.D., Schoenfeld, B.J., Beardsley, C., and Cronin, J. (2015). A comparison of gluteus maximus, biceps femoris, and vastus lateralis electromyographic activity in the back squat and barbell hip thrust exercises. Journal of Applied Biomechanics 31, 452–458
6. Andersen, V., Fimland, M.S., Mo, D.A., Iversen, V.M., Vederhus, T., Rockland Hellebø, L.R., Nordaune, K.I., and Saeterbakken, A.H. (2018). Electromyographic comparison of barbell deadlift, hex bar deadlift, and hip thrust exercises: A cross-over study. Journal of Strength and Conditioning Research 32, 587–593
7. Neto, W.K., Vieira, T.L., and Gama, E.F. (2019). Barbell hip thrust, muscular activation and performance: A systematic review. Journal of Sports Science and Medicine 18, 198–206
8. Lockie, R.G., Orjalo, A.J., and Callaghan, S.J. (2020). A short communication on the relationships between the barbell hip thrust and change-of-direction speed in college-aged women. Journal of Trainology 9, 11-14