HPCスタッフコラム

2020.01.09

パフォーマンスへの移行:両側性vs片側性エクササイズ

画像

以前、このコラムでも両側性と片側性のエクササイズの効果の比較をした研究を紹介しました(両側性と片側性のプライオメトリックス:垂直跳びへの効果両側と片側エクササイズの相互作用)。両側性、および片側性のレジスタンスエクササイズにはそれぞれの特徴があり、S&Cのトレーニングではその特徴を生かし、両方のエクササイズを目的に合わせて組み合わせながらトレーニングプログラムが考えられます。今回紹介する研究は、両側性と片側性のレジスタンスエクササイズが、スプリントや方向転換のパフォーマンスに与える効果を検証しています。

 

Unilateral and bilateral lower-body resistance training does not transfer equally to sprint and change of direction performance.
片側性および両側性の下半身レジスタンストレーニングはスプリントや方向転換のパフォーマンスに同様に移行しない

Appleby, BB, Cormack, SJ, and Newton, RU.

J Strength Cond Res 34(1): 54–64, 2020

目的
最大筋力は両側性または片側性のレジスタンストレーニングによって向上できるとされているが、この研究の目的は、スプリントや方向転換(COD:Change of Direction)への片側性または両側性のレジスタンストレーニングの移行の度合いを測定することである。

被験者
33名のラグビー選手(平均値 ± SD:年齢 = 22.4 ± 4.1歳、身長 = 185.3 ± 5.5 cm、体重= 102.9 ± 12.0 kg、平均トレーニング年数 = 5.4 ± 2.9年、90°スクワットの 最大挙上重量(1RM) = 177.6 ± 26.7 kg)

方法
33名の参加者が両側性グループ(BIL、n=13)、片側性グループ(UNI、n=10)、または比較対象(COM、n=10)の18週間の無作為比較トレーニングプログラムのいずれかを終了した。トレーニングは週に2回のボリューム負荷が等しい下半身のレジスタンストレーニングのセッション(6-8セット×4-8回、1RMの45~88%)で構成され、両側性(スクワット)または片側性(ステップアップ)のレジスタンスエクササイズの処方においてのみ異なった。20mスプリントとカスタマイズされて50°CODテストに加えて、筋力をスクワットとステップアップの最大挙上重量にて評価した。各時点でのグループ内およびクループ間の差の大きさを検証するために効果量の統計値±90%の信頼区間(CL:Confidence Limit)(ES±CL)を計算した。

結果
BILとUNIグループはそれぞれのトレーニングエクササイズのもう一方のエクササイズ(の重量)が向上し、スクワットの筋力の適応においては明確な差はなかった(ES=-0.34±0.55)。両グループともに20mのスプリントが向上したが(ES:BIL=-0.38±0.49、UNI=-0.31±0.31)、グループ間の差は明らかではなかった(ES=0.07±0.58)。両グループともに方向転換のパフォーマンスに有意な向上があったが、片側性のレジスタンストレーニングよりも両側性のレジスタンストレーニングにおいてCODパフォーマンスへのより大きな移行があった(グループ間ES=0.59±0.64)。

結論・応用
両側性、片側性のトレーニング共に下半身の最大筋力とスプリントの加速能力を向上させた。しかし、BILグループはCODパフォーマンスにおいて優位な向上を示した。この結果は、目的とするパフォーマンスの動作の特異性を基にしたエクササイズの選択ではなく、適応を促す根本的な生理的な刺激をターゲットとする重要性を潜在的に協調している。

オリジナルの文献はこちら

 

両側と片側エクササイズの相互作用で紹介した研究と同様に、片側性のレジスタンストレーニングによって両側性のエクササイズ(スクワット)の筋力の向上がこの研究でも示されました。また、トレーニング後の両グループのスクワットの最大挙上重量にも差がないことも示され、同負荷、同ボリュームの条件においては片側性、両側性のエクササイズによる筋力向上に大きな違いは出ないようです。

そして、この研究の特徴であるパフォーマンスへの移行に関してですが、両エクササイズ共にスプリントタイムを向上させました。筆者らは、スプリント、特に加速段階において重要な要素となるコンセントリック局面の筋力発揮が、下肢筋力の向上によって向上したためと考察しています。それに対して、CODのパフォーマンスでは両エクササイズ共に向上したものの両側性のエクササイズにおいてより大きな向上が示されました。伸展位から屈曲し伸展するスクワットに比べ、開始姿勢が屈曲位であるステップアップのほうがエキセントリック局面の刺激が少なくなるためではないかと著者らは述べています。このことから、ステップアップではなくランジやブルガリアンスクワットなどの片側性のエクササイズではこの違いは出なかったかもしれません。

この研究で示され、著者らが強調しているのは、スポーツ動作のパフォーマンスを向上させるにはその動作の根本となる要素を理解し、それを向上させるための刺激をトレーニングによって与えることの重要性です。トレーニングプログラムにおけるエクササイズを選択する際は、エクササイズの特徴だけでなく向上させようとする動作を理解することで、最適なエクササイズを処方することができるでしょう。