HPCスタッフコラム

2020.01.29

未経験者によるクリーン習得のメリットとデメリット

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多くのスポーツでパワー発揮や跳躍力は選手のパフォーマンスを決定する重要な要素の一つであり、クリーンやスナッチといったウェイトリフティングエクササイズがそれらを向上させるためのエクササイズとして取り入れられています。ウェイトリフティングエクササイズの効果は以前の記事(こちらこちら)でも紹介しました。またウェイトリフティングエクササイズについての論文を検索すると数えきれないほどの件数が表示されます。

しかしながら、ウェイトリフティングエクササイズは、その複雑さから正しいテクニックの習得が容易ではなく、その習得には時間がかかることが多いです。そのため、ウェイトリフティングエクササイズ未経験のアスリートに対してクリーンやスナッチといったエクササイズをトレーニングプログラムに組み込む際は、習得までにトレーニングに費やさなければならない期間とウェイトリフティングエクササイズによる効果を天秤にかける必要があります。

今回紹介する研究は、ハングクリーン未経験のエリートアスリートにおいて、エクササイズの習得過程を通してのテクニックやパワー発揮の変化を記録し、ウェイトリフティングエクササイズ導入の是非を検証しています。

 

Learning the hang power clean: Kinetic, kinematic, and technical changes in four weightlifting naive athletes.
ハングパワークリーンの習得:4名のウェイトリフティング初心者におけるキネティックス、キネマティックスおよび技術の変化

Haug, WB, Drinkwater, EJ, and Chapman, DW.

J Strength Cond Res 29(7): 1766–1779, 2015

目的
エリートアスリートにおいて、ウェイトリフティングトレーニングの効果に見合うだけの習得するために費やす時間は現状、まだ明らかになっていない。この研究の目的は、複数の単一被験者法を用いて、垂直飛びのパワー発揮とハングパワークリーン(HPC:Hang Power Clean)パフォーマンスのキネマティックスの変数の未経験の状態からの習得過程における変化を数値化することである。

被験者
参加したアスリートはオーストラリア代表ショートトラックスピードスケートチームの一員(年齢17歳~22歳)でウェイトリフティング動作は未経験であった。

方法
4名のエリートアスリートが169日間にわたって週に2回、約20~30分のHPCの習得を行った。スクワットジャンプ(SJ)および反動を用いた垂直飛び(CMJ:Countermovement Jump)中の垂直方向への力発揮の数値の変化をベースライン(開始前)およびその他に3回の機会において計測した。ハングパワークリーン動作のキネマティックスおよびバーの軌道が35日目から個々の期分けされたトレーニング計画に合わせてその他3回の機会で測定された。アスリート内の記述統計値を平均±標準偏差(SD)で報告した。

結果
4回の測定機会にわたって最大パワーに14.1~35.7%(SJ)および-14.4~20.5%(CMJ)の増加が見られ、それは最初の4週間において向上した(SJ:9.2~32.6%、CMJ:-2.9~20.79%)。HPC動作のキネマティックスとバーベルの軌道の変化がそれぞれのアスリートに起こり、HPCの習得に従って、コンセントリック局面において圧力中心(COP:Center of Pressure)がより後方に向かい、移行局面でのより大きなダブルニーベンド、最大底屈角度の減少、そして身体の垂直方向への変位が最低限であったことを示した。

結論・応用
垂直方向へのパワー発揮の増加を達成するために最短で4週間を費やすことを考慮すると、これらの4人のエリートアスリートにおいて、HPCを用いてトレーニングする効果は習得のために費やす時間を正当化できる。

オリジナルの文献はこちら

 

この研究でも最も顕著な発見は、ウェイトリフティングエクササイズ未経験のアスリートがクリーンのテクニックを学んでいる最中にも力発揮が向上したということでしょう。結果を見ると、研究期間のパワー増加の大部分が最初の4週間に達成されています。筆者らも述べていますが、多くの場合でウェイトリフティングエクササイズの習得は時間がかかることがデメリットとされていますが、その習得期間中にも十分パワー発揮の向上が見込めるため、未経験者にもウェイトリフティングエクササイズを取り入れるメリットは十分にあるでしょう。

また、研究のデザインが単一被験者法であるため、アスリート個々の個人差が大きく影響しているように思います。パワー発揮や跳躍時の速度などウェイトリフティングエクササイズの効果が顕著に出るアスリートもいれば逆に低下を示すアスリートもいました。今後の研究でこのような個人差が現れる要因を特定できれば、より効果的にウェイトリフティングエクササイズをトレーニングプログラムに導入できるのではないでしょうか?

最後に、S&Cコーチやパーソナルトレーナーがパワー発揮や跳躍力の向上を目的としてウェイトリフティングエクササイズの導入を検討する際は、エクササイズテクニックを熟知しアスリートの習得過程をできるだけ効果的に、そして効率的にできることが望まれます。